2020.2.9のCOMITIA131で頒布した創作漫画「稀有の海より」のあとがきです。
(こちらは同年3月7日にはてなブログで公開していたものをそのまま再アップしたものになります)
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第一話に「ここは現世でも常世でもない」というイトの台詞があります。
現世は文字通り、私たちが生きている現実の世界です。
常世は日本神話で「海の彼方にある世界」とされており、この物語では「死後の世界」を意味しています(理想郷を意味する場合もあり、類似するものに琉球神話のニライカナイがあります。興味のある方はぜひ調べてみてください)
その間に広がる海。常世というものが存在するならば、そこへ向かうための船を待つ港や、イトのコーヒー店がある島。
それら一帯をこの物語では「稀有の海」と称しています。
イトはこの海の住人ですが、稀有の海の彼方に何があるのかを明確には知りません。
死んだら自分の魂がどうなるのかわからない私たちと同じように、彼もまだ死を迎えていない人間なので、死者たちが最終的にどのような場所へ向かうことになるのかはイト自身にもわからないのです。
それでも彼はホツレにあちら側へ渡ることを促します。夜明けがくれば海へ送り出していきます。
「死者は必ず海を渡らねばならない」という掟があることももちろんですが、これまで多くのホツレを見てきたであろうイトには、彼らにとってそれが一番の幸せであることがはっきりとわかっているからです。
イトと、彼の淹れるコーヒー、そしてあの空間には、温もり・安らぎ・勇気があります。
死を迎えてこちら側に来た以上、死者はもう戻ることも逃げることもできません。
海を渡るしか選択肢がないとわかっていながら、それでも動くことができずホツレとなってしまった者たちを、夜明けまで受け入れコーヒーでもてなします。
「いろいろあった人生だったなあ」と振り返りながら自分自身に終止符を打つ決心ができるまで、それらは彼らを絶対に突き放したりせずに最後まで静かに優しく寄り添います。
そうして夜が明けたとき、自分たちが与えてきた温度を朝日の光熱に託して、彼らを送り出していくのです。
そんな不思議な場所が死の向こう側にあったらいいな。
と思いながら、この物語を描きました。
死をテーマにした漫画を描こうと考えたとき、なるべく暗い話にはしないということを一番に決めました。
死という言葉を見て「辛い、悲しい、不安、恐ろしい」と感じる人は多いと思います。
しかし誰もがいずれ死を迎えます。死は生きる上で絶対に避けられないものです。
だからこそ今一度、いつかやってくる命の終わりについて考えてみてもいいのかなと。
この物語がそういうきっかけとなれたら幸いです。
最後に執筆のお供BGMとして聴いていた音楽をご紹介して、あとがきを締めたいと思います。
・「Follow Me」:: 伊藤君子
・「鉄道員」:: 坂本美雨
・「Moon River」:: 手嶌葵
・「終章(鉄道員サントラより)」:: 国吉良一
・「草稿」:: Hideyuki Hashimoto
ここまでお読みくださりありがとうございました!
COMITIA131 【く14b】 群青通東入ル
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