新品を買ったはずだよな。 そう思うほどにくたびれた1冊が本棚にいる。 かの有名な太宰治の「人間失格」だ。 かつて私は芥川作品を好んで読んでいた。一方で、太宰作品は何故だかあまり読めなかった。高校生の頃だったか。初めて「人間失格」を読み、初めてページを捲る手が止まるという体験をした。それまで、読み進められない本を手に取ることがなかったと言っても過言ではない。とは言っても、大した読書量ではなかったが。 そんな私が、初めて【どう足掻いても読み進められない】本に出会った。ある意味で衝撃的だった。これはもう絶対読み終えてやろうと、どこへ行くにもその1冊を持ち歩いていた。 そうやって持ち運び続け、くたくたになった「人間失格」。今も相変わらず本棚の目につく場所に鎮座している。 お恥ずかしい限りなのだが、苦労したにも関わらず、読み終えられたかどうかの記憶は曖昧だ。誠に申し訳ないことなのだが。 いつのまにか、本の居場所が鞄から本棚に変わっていた。 ただ、その背表紙を見る度に、読みたいのに読み進められない時の、あのなんとも言えない気持ちの悪さが蘇るのだ。かと言って手放すに手放せない。 恐らく来年も再来年も本棚にあの本はいるのだろう。私はまだ彼の本を読むことを諦められずにいる。 人は私の本棚を見て、くたびれた1冊に目を留めてこう言うだろう。 「太宰治が好きなのですね」 私は冗談めかして言うのだ。 「いえ、実はまだ読めていないのですよ」
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