　ここはとても寂しい所で、どこまでも悲しくて、どこまでも退屈が続いている。いつの間にか満ちていた厭世観も既に見慣れて、とても自分に馴染んでいる。

　何とかして現状のこの虚しい生き地獄から抜け出そうと部屋の端から端迄を行き来しているが、その極めて無駄な運動が自分を更に追い詰めるので、時間は骨董品でも扱うかの様な慎重さでそっと進む。

　センターの廃棄物倉庫の鍵を閉めて入道雲を眺める予定がころっと消えていた。そういった予定があったことを思い出したくはなかった。白いシーツのある部屋で本だけが外の世界である今は、カーテンも開けないから入道雲を見る事もない。イヤ、決して入道雲を見る必要があってその用事をすっぽかしたらどうにかなるとかは一切無くて、寧ろ無いからこそ思い出して虚しくなるのだろう。自分がこの先どういう人生を送るかという想定は、今迄散々荒らされているのでいっそ全くしたくないものだが、若しも私があの時病気をしていなかったら今頃はあれを買っていただろうとか、もっと小さくは、今頃の季節に見ていた筈の雑草とかその程度のもの迄、考えまいと思っても些細な拍子に事ある毎に、もう呪いの様に頭を駆け巡る。そしてそういった空想に心を奪われたか、なんとまあ味気ない現実よ、本の方が余程臨場感があるし、田舎の化粧品屋なんかに貼ってある年代物のポスターの方が明瞭かも知れない。

　悲しい事に、今の私にはこの先に輝かしい何かを見出す気力か何かが極端に欠けていて、その感覚を思い出せる自信も無い。こんな中でも金は消える一方で、生きたくて生きている訳でもないのに、何かと金が奪われていく。腹は減らないが食べない訳にもいかず食べれば金の方は減り、今なんて暑くてどうだっていいのに他人が居るから服を買って着る他なくて、矢張り金は減る。時々、何か美味しいものを食べるとか楽しい事をするとかすれば気分もマシになるのではないかと期待しては無駄遣いをする。金が消える。病院へ行っても何かが変わる訳ではないのだから、矢張りここでも無駄遣いという事になる。斯くして不本意と無駄で金が消え、何とも情けない気持ちになる。

　天井を眺める時間が増えた様な気もするが、その実目を閉じている時間に食われて減ってすらいるかも知れない。

　肌を通して肝臓辺りが悲鳴を上げている。

　生存が難しい。

悠信幻-2