リクエスト箱にいただいていたお題消化!
早いうちにほとんど書き上がっていたのに、締め方が決まらず今になってしまったのは反省ですね…。
いただいたお題は「青天の霹靂(へきれき)」。
晴れた日に突然降る雹(ひょう)や霰(あられ)のことと思ってましたが、調べてみると雷のことだそうで、それはさぞかし衝撃的な出来事ねと今作が生まれました。
異世界にも同じことわざがあるかは謎ですが、私の異世界ものにはあるのです。と強がっておきますね。
黒井羊太さん、リクエストありがとうございましたー!
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* 今作は朗読向きじゃあないよ、と思うのでフォローde朗読フリー対象外とさせていただきます。ご希望の方がもしいらっしゃったら、コメントくだされば検討いたしますのでー。
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【ボクらの世界が終わるまで】
先生たちすらまだ来ていないような時間。いつも遅刻してばかりだから、たまに起きれた日くらい早くに学校へ行くことにした。そんなボクの行動もまぁそうなのだけど、目の前にあるこの光景のほうがよほど『青天の霹靂(へきれき)』だった。
万年しかめっ面で、誰との応対もどこかつっけんどん。それでも長年の腐れ縁が続いたおかげで「良き理解者」の関係を築いてきたあの友人が――デレている。否、デレを通り越して顔が溶けていた。
「やだぁ、恋? 恋でしょ! さては恋しちゃったんでしょアシーってば!」
あまりの衝撃に脊髄反射で声をかけてしまった。スライムだった彼の顔が一瞬にしていつもの岩石にまで復元する。薄い表情の機微には聡いと自負しているけれど、照れも焦りもそこには読み取れなくて、本当にキョトンとしているだろうことにガッカリした。
「急に何?」
「んーん、顔が戻ってたからつい勝手に興奮しちゃっただけ。騒いでゴメn――あっるぇ~?」
瞬きの間に、また顔が溶け出している。いったい何がどうしてそうなったのか。
「え。もしかして今、溶けてる? あれ??」
「最近暑くなってきたし、そのせいとか。どこか体調悪かったりしないの?」
「いや、特には……」
戻ったり、戻ったり。落ち着かない顔面は、観察するまでもなく相当焦っていることが分かる。
ボクが声をかける前の様子を思い返してみるも、視線の先にあったのは花瓶と花と、今はあふれ続けている水くらい。手洗い場付近には誰もいなかったとなると――
とりあえず代わりに蛇口を閉め、花瓶の水を適度に捨てる。それから向き直って、内心ニヤリとしながら核心を突いた。
「何、考えてたの?」
時が止まる数拍。計(はか)ったように廊下を風が吹き抜けたあとで彼の全身がバシャリと溶けきった。ジュウとあがる木床の悲鳴にハッとする。
「ああーッ、からかいすぎゴメン! まさか変化(へんげ)できなくなるほどの大事(だいじ)だと思わなくて、ひとまず落ち着こうか!! ほぉーらボクも髪が枝葉に戻っちゃうくらい困ってますよー?」
ボクのように完全なヒト型とはいかないまでも、酸の身をヒト型の石に変えることができるようになったから触れ合えるようになったのに、このままでは本当に困る。
はねた酸が髪の枝を焼く。 声は堪(こら)えたけれど表情はムリだったせいで、焦ったアシーの身が泡立った。これ以上はマズイ。
「大丈夫だよ。少し離れるから安心して」
「……ごめんよ、ドリィ」
それはボクの台詞なんだ、とは内心でだけこぼした。
好きだから、「好き」って彼が言えるまで気長に待っている。ボクから言っても大丈夫になる日はその更にもっと先だろうことを思うと、お互いニンゲンではない長命の身――アシッドスライムとドライアドに生まれて良かったのかもしれない。
もし抱きついても平気になる日がこの世のマナ尽きる日まで来ないとしたら、その最後の日に彼に焼かれて共に朽ちよう。そんな激重感情を隠しながら、ボクは今日も彼のそばに居る。
〔ボクらの世界が終わるまで/了〕
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