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黒井羊太

2022/06/12 13:00

足跡の世界(短編小説)

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 眼前に広がるのは、無尽の荒野。  見渡す限り、何もない。  私は何故ここにいるのか、そんな事を気にするより先に心が躍った。  一歩、踏み出す。  また一歩、前に進む。  振り返れば、荒野に私の足跡だけが残されていく。  とても心地よく、嬉しい。  歩く、走る。  時には宙に身を躍らせながら、無指向に飛び回る。  スキップしたり逆立ちしたり、思い切り跳んでみたり。  そうして刻まれた足跡は、やがて意味を持つようになった。  木が芽生え林に育ち、森となった。  様々な色が飛び交い、物語が生まれた。  その様を眺めるたび、私は嬉しくなる。  嬉しくって嬉しくって、いよいよ力の限り踊りまくった。  無尽の荒野には、無数の足跡。  長いの短いの、太いの細いの。  足跡で描かれた、私だけに見える美しい世界。  足跡で刻まれた、私だけが読める楽しい物語。  私の歩いた道が、世界になっていく。  あぁ、これが人生なんだ!  ある日、不思議な事が起こった。  いつも通りのステップで、足跡が半分だけしか付かなかったのだ。  おかしいな、なんでだろ。  爪先を立ててトントントンと地面を突けば、そこに足跡が出来る。  うん、ちゃんと付くわね。  すぐに身を翻し、舞う。  足跡からはまた、世界が生まれる。  私は、満足げに頷いた。  その現象は、徐々に回数を増やした。  その内踊っているよりも、立ち止まっている事の方が多くなってきた。  不安に駆られながらも、運動を続けていく。  そして遂には、足跡は付かなくなってしまった。  何度踏んでも、足跡が増える事はない。  世界は変わらずあり続け、静かに描かれるのを待っている。  じっと眺め続ける、私の世界。  その視線がまた、私に焦りをもたらす。  踏む。  踏み躙る。  飛び跳ねる。  地に体を擲つ。  どんな事をしても、何の跡も残らなかった。  私は悲しみに暮れて、ひたすら泣いた。  泣いて泣いて、泣いた。  泣き疲れて倒れた時、体が軽くなったのを感じた。  涙の分だけ軽くなった体は、ふわり空へと上り始めた。  ジタバタと足掻くけど、どうする事も出来ない。  何かにしがみつこうにも、ここは荒野の真ん中。  プカプカと私の体は、上空へ。  どこまでもどこまでも浮いていく。  眼下には、私の足跡の世界。  木々が生え、美しい世界。  人々が行き交う、楽しい世界。  とても広く、小さな世界。  それを遠くに眺めながら、空に浮かび続けながら私は分かった。  あぁ、これが人生なんだと。  ペンとして生まれた私の人生の、終わりなんだと。

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