


6-1: 1 「おー、どうしたスレッタ。……あぁテストの感触悪かったのか」 「うぇぇ……」 私は机の上に突っ伏してマズルを両手で覆う。そりゃあ、合間に部活いったり、ホルダーとして決闘を受けたり、ミオリネさんとイチャイチャしたり、イチャイチャご飯食べたり、イチャイチャお風呂入ったり、イチャイチャ交尾したりしたけど。ちゃんと勉強したのにテストの感触は最悪だった。 「折角ミオリネさんにお勉強教えてもらったのに、赤点だったらどうしよ……」 「実はな、あーしも結構ヤバくて……ん、教えてもらった? 逆じゃなくて?」 全く間違えてない。私がミオリネさんに勉強を教えてもらってるので。 「ミオリネさんはミオリネさんですから!」 「なんか最近のお前の話聞いてっと、ミオリネの頭の良さが限界突き抜けすぎててこぇーんだよな……。デイトレードしてるとか、会社作ったとか……」 どこか懐疑的なチュチュさんに「全部本当ですって」と鼻を鳴らす。ミオリネさんは本当にミオリネさんなのだ。今日も預託所のなんとかってネコと大事なお話があると聞いている。最近は街もどこかピリピリしているから、ちょっと心配。 2 先日のエリクトとの会話の後、ミオリネさんの動きは素早かった。アリヤさんと、協力してくれているネコのブローカーさんを通じてこの街の中心的預託所、セントラル・ブリオン・トラストの軒先にヒトの派遣を手がける新しい会社、ガンダム社を設立することになった。ガンダムってなんだろう? ミオリネさんは古い言葉らしいと言ってた。ガンダム社の一応の代表は私で、副社長としてミオリネさんの名前がある。一回だけサインの為に預託所の偉い人に呼ばれて、セセリアというリンクス種のイヤな感じのネコにいろいろ言われながらいろんな書類にサインした。何の書類なのかよく分かっていないけれど、ミオリネさんが大丈夫と言っていたので大丈夫なのだろうと思う。 最初の事例が重要、とのことで、リリッケさんとマルタンさんというアリヤさんの所のヒトさんが最初の〝会社所有のヒト〟になってくれた。個人の飼い主ではなく会社がその所有権を持ち必要な所に派遣するというのは一般的なことで、例えばこの前ケナンジさんが背中に乗せていた哨戒トカゲなんかがそうだ。会社で面倒を見ることで利用者の飼育負担を減らし、その分をレンタル時に徴収して貸し出し、何かあった時は利用者に弁済する義務が生じるんだって。 3 「これを定着させていくことで、〝ヒトは金払って借りてくるような職能ペット〟っていう意識が根付くのよ。価値があるんだぞっていうアピールね」 会社の話をする時のミオリネさんはいつも楽し気だ。わくわくしてる、そういう雰囲気を隠していない。預託所からの融資の証文や、買い上げる予定のヒトさんの証文を手に、頭の中でいろいろと計算しつつ口角を上げて笑う。 「今はまだ環境に不満がありそうなヒトを買い取るだけだけど、いずれあの繁殖施設も合併する。……いつかクソ親父を鼻で嗤ってやるんだから」 今はクマの手でも借りたい時期らしいとのことで、そうだミオリネさんのお世話してたペットショップの店員さん! と思いついて会いに行ったら、店員さんには腰を抜かす勢いでビビり散らされてしまった。「案外上手く行くかもどころかそうなるの!?」とのことだった。店員さん、ベルメリアさんもヒトのお世話の為にアドバイスしてくれることになって、話を聞いたチュチュさんとニカさんもたまに遊びに行くようになって、会社は順調に牙数が増えていっていた。 皆にはちゃんとやることがある。ミオリネさんの会社のために頑張ってる。……私は? 私は名前を貸してるだけだ。大型イヌダイア種、スレッタの名前を。 4 「おーい、スレッタどうしたー? おめー今日は部活だっつってなかったか?」 チュチュさんの声にハッとなる。そうだ今日は夏休み前に決闘したいってイヌネコが押し寄せてるから、まとめて相手しようって思ってたんだ。ぼんやりしてる場合じゃなかった、慌てて荷物をまとめて立ち上がる。チュチュさんは大丈夫か? と少し心配げに鼻を鳴らしたから、それに「大丈夫です!」と答える。 「後悔しててもテストの点は良くなりませんからね!」 そうだ、ここで悩んでいたところで何かが変わるわけじゃない。私が今すべきなのはホルダーとしての責務だ。ホルダーってのは、テストでやっていたように竜という外敵を得たイヌとネコが多様に分化した同種族たちをまとめる為に取り入れた〝最も強き者〟の称号だ。その類稀な暴力を以て各種族をまとめあげ庇護する、イヌではアルファ、ネコではプライドリーダーと呼ばれていた称号を持ちし者、タイトルホルダーだ。各街の一番大きな学校はそれを踏襲した制度を取り入れていることが多く、ホルダーにはその地位に挑む者の挑戦を受ける義務がある。でも挑戦を受ける側だから、日程とかに関してはかなり融通が利く。だから私はわざわざグエルさんに挑んでホルダーの座を勝ち取ったのだった。 5 「一本、そこまで!」 本日四鼻目を難なく下し、ふぅと溜息を吐く。ここ暫くはずっとグエルさんが死守していたという話だったけど、挑んでくるイヌもネコも正直言って弱い。私舐められてるのかな? 中型以上にしか挑戦権が無いからというのもあるけれど、そもそも大型種は数が少ないんだよね。手を突っ張ってぐーっと伸びをして二足で立ち上がると、ウチワと水のボトルを持った小型イヌが三鼻駆け寄って来た。 「スレッタさん、お疲れ様です! 流石お強いですね! お水もどうぞ!」 「わぁ、ありがとうございます!」 口を開けて体の熱を逃がしているところに、ぱたぱたとウチワで風を送ってもらうと気持ちがよい。イヌは基本的に暑いのが苦手なので、今の時期こういう気遣いは本当にありがたい。このイヌたちが誰なのかは知らないけども。 「皆さんも応援ありがとうございますー!」 見物しているイヌたちに手を振ると、彼女たちはワッと沸いて尻尾を振って応えてくれる。大型種とは野生の象徴だ。幾らイヌネコが賢くなって文明的な社会を築こうとも私たちに根付くそれを、思い出させてくれる。そんな存在らしい。 6 大昔、イヌがイヌになってネコがネコになった頃くらいに、イヌの中でもいろんな種族に分かれていった。より賢く家畜をコントロールすることに重きを置いた種がコリーに、とにかく皆で結束して敵に立ち向かっていた種がテリアに、大きな体で皆を守ろうとした種がマスティフに。そんな中で少数精鋭のエリートを揃え、一糸乱れぬ動きをし、大きな体と鋭い牙で戦う戦闘の専門家として先鋭化していったのがウルフ種だ。現代では軍の中枢を常に占めるウルフ種の、更に一回り大きな体と真っ黒な体毛を持つ私たちはいつしかダイアと呼ばれるようになったと聞く。イヌの中のイヌ、ウルフの中のウルフ、それがダイア種。 「やっぱりダイアともなるとネコなんて目じゃないんですね! 三鼻目のタイガを吹き飛ばした時なんて、あまりにも鮮やかで私大コーフンでしたよ!」 そして、現代では小型種からしたら自分たちの絶対的な味方で、自分たちの持っていない圧倒的な膂力を帯びたイヌで、尊敬すべき存在だ。だから小型種のこのイヌさんたちはキラキラした目で私が強く逞しいことを素直に褒めてくる。 「スレッタさんのツガイのヒト、幸せだろうなぁ。ダイアともなると、いつか軍入ってレックスとかと戦っちゃうんでしょ? 絶対かっこいいじゃんそんなの!」 7 ほぉと息を吐く彼女たちに悪気は無い。無いのは分かってる。 「そういやツガイのヒト、最近ヒトの貸出事業を始めたって聞いたな」 「え、なんで? そんなことしたらネコから睨まれるじゃん。……あー、スレッタさんがいるからか! すごいなぁ、ペットにそこまで自由にさせちゃえるんだ」 「バックにダイアが居るなら誰も文句言わないもんね。流石スレッタさん!」 分かってるのに、彼女たちの言葉にもやもやしちゃうのは、なんでだろうな。 私はダイア種の、大型イヌ。手が大きくて不器用で、力も強いから書類を書くのも一苦労だし、ミオリネさんの会社に行ったら狭くて身の置き場がなかった。彼女の役に立てない私は、それでも私を尊敬しているイヌからしたら〝ダイア種のスレッタ〟でしかなく、そして恐らくミオリネさんの努力も成功も何もかも〝ダイア種が背後にいて庇護しているからできたこと〟なのだ。 イヌはなんというか、家畜であっても飼育している間は同じ群れの一員だと考えてしまうから、皆家畜にもペットにも好意的だ。だから私が愛玩種のヒトをツガイにしていることを鼻で察しても「そういうこともあるよね」みたいな態度になる。普通に祝福もしてくれる。けれど、それは対等だと認めたわけじゃない。 8 「賢いヒトちゃんをツガイに持ててスレッタさんもお幸せでしょう。私達、これからも応援してます! ネコがなんか言ってきても、蹴散らしちゃいましょう!」 彼らにとって私は、あくまでも強くて偉大なダイア種だからだ。 私がミオリネさんのことをどれだけ好きかなんて、気にもしていない。やり切れなくて溜息を吐きそうになったけど、ファンの前だ、なんとか飲み込んだ。 「おい、サマヤ家のスレッタ! 最後は俺だぞ」 グエルさんの声にファンのイヌがそっと離れる。グエルさんはファンにちやほやされて調子に乗るなと言いたげにふんと鼻を鳴らしたけれど、実際には私が困ってたから助けてくれたんだろうなって分かっていた。 「ミオリネんとこのイヌ! 悪ぃ、しくじった!」 槍と防具を装備していざ向かい合おうとした時、体育館の扉を蹴破る勢いで猛然とネコが入ってきた。ミオリネさんのブローカーをしているクーガー種のネコ、エランさんだ。今日は仕事の筈なのに何故ここに? そう訊ねるよりも先に鼻が血と硝煙の匂いを嗅ぎ当てる。エランさん怪我してる。……ミオリネさんは? 「目の前で攫われた、二足歩行主義の奴らだ! ミオリネが危ない!」 20260701 by トランジスタ 本投稿の無断での転載・複製・複写・販売・AI学習を禁止します。 スレッタはいるだけで(匂いをさせているだけで)ミさんの役に立ってるし、ミさんが帰るところはスの所しか無いんだけど、スにはそれはわからないんだよね、と言う話。ずっとこの暴力の代行、罪の裁定、皆の憧れのリーダーたる資格持つ者、そう扱われてきたから。 ちなみにイヌはスミの関係を「あー、主従バグちゃったんだなぁ」くらいの認識でいる。俺らで言うと使用人にガチ惚れしちゃった主人、くらいの感覚。 一方ネコは家畜はあくまでも家畜なので、”いくら可愛いからってインコとかの求愛にガチで応える奴いねぇでしょ”の感覚です。ちょい引き気味。 レックス:災害級ドラゴンの一種、でかい。軍の一個師団が必要なレベルの竜。災害級ドラゴンは軒並みでかくて肉食で大型種すらパクっといっちゃうスケールな為、罠かけたり大砲だのなんだのをぶち込んだりして倒したり追い払ったりする。尚、レックスは災害級ドラゴンの中では”マシ”な部類。コアトルとかいう巨大翼竜がいるので…
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