飼い主獣人スレッタとペット人間ミオリネさん:6-2

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6-2: 1  エランは大丈夫だろうか。突如として私達の前に現れたイヌとネコ達は鉄製の筒にグリップが付いた物をエランに向けて、私を置いてどこかへ去るようにと要求しながら私を取り囲んだ。確か小筒と呼ばれている武器で、大砲を小さくしたような物だったかと思う。彼らはエランが動かないのを見て、あっさり彼の足を撃ち抜いた。ボフッという独特の音がしたなと思ったら、直後に彼は倒れていた。  一方で、彼らは私に対しては非常に穏やかな態度を見せた。最初こそ少し殺気立った様子だったが、私の顔を見るなり何やらしたり顔で頷き、恭しく馬車に乗るよう言ってきたのだ。エランが足を撃たれてしまった以上彼に助けを求めることはできないし、なにより私がここでゴネると命さえ奪いそうな様子だったので、仕方なく従った。彼らは不格好な靴を履き、四足で歩く時に邪魔になりそうな、シーツを頭から被ったような不思議な格好をしていた。 「親愛なる二足の友よ。今日は貴方をお連れするよう、あるヒトに頼まれてお迎えに上がりました。私達は二足歩行主義者の集まり。知性を信ずる者達です」  心の中で舌打ちする。二足歩行主義者と言えば私に敵意を向けてきていた連中だが、彼らの様子は随分違う。厄介な相手なのは明白だった。 2  馬車に揺られながら彼らが口々に語った信念とやらはこうだ。我々イヌネコは二足歩行により知性を育み、それによって現代に至る高度な文明社会を築き上げた。となれば我々は可能な限り二足でいることで更に高い知性を獲得し、より生き物として優れた存在になるべきで、四足で振るわれる暴力は、これは野蛮であり否定されなければならない。最近の若い者は二足をイヌネコに許された特権のように考え同じ二足の友たるヒトを攻撃しているようだが、真の特権とは知性それ自体であり、故に二足歩行によって知性を得た脆弱で野蛮からほど遠い真のヒトとは共に歩むべき同胞であり、我々よりも一歩先の高尚な知性を帯びた見習うべき師である。……なんか聞いてて頭痛くなってきたな。 「貴方の高潔さは一嗅ぎで分かります。預託所から来たということは商売を?」 「はぁ、まぁ新興会社の副社長ですけど……」 「おぉ、やはりそうでしたか。イヌに飼われる身でありながら、社会のシステムである経済市場という場で経済的自立を確立しているのですね。素晴らしい」 「やはり生まれながらに二足の生き物というわけですな。野蛮さが無い」 「我々啓蒙主義派閥の一員として迎えるのに相応しい、素晴らしい知性だ」 3  暫くして、馬車が止まった。彼らのわざとらしい的外れな賛辞に内心顔を顰めつつ、降りろと指示されるので降りる。植物に覆われた廃工場のようだ。攫われた時から暫く経っている、どのくらい街から遠いのだろうか。降りた先にも複数のイヌネコが居て、私を遠巻きに見ていた。不思議と彼らは私に無理に触れたりはしてこない。私を見て、匂いを嗅いで、上品に私を観察していた。 「四枚カラス殿、シャディク殿。ミオリネ様をお連れしました」  はぁ? 何? いったいどっからつっこめばいいわけ?  通されたのは天井の高い大きなエリアだった。工場っぽいし、かつてはここにラインが敷かれていたのだろう。そこには私を連れて来たイヌネコと同様の恰好をした一団と、シャディクがいた。イヌネコの方は先頭の四尾だけ異なる恰好をしている。全体的に背が低くシャディクたちとそう変わらない。シャディクの後ろには汚い身形ながらも目をギラつかせたヒトが数頭控えている。 「やぁミオリネ、また会えて嬉しいよ。招待状は気に入ってもらえたかな?」  思わず舌打ちしてしまった。成程、この誘拐劇の主犯はこいつか。 「招待したのが私だけなら良いけどね、誘拐犯さん?」 4  私の返答にシャディクは肩を竦める。何故そんな反応になるのか一瞬分からなかったが、そうか、私以外も誘拐したの? という問いだと捉えられたのか。 「おやまぁ、話に聞いていたのとは随分印象の違うヒトが来ましたね」  四枚カラスと呼ばれていた背の低いネコ達の一尾が良く通る声でそう声に出す。まるで周囲の者に演説するかのような、はきはきとした喋り方だ。 「〝横暴な飼い主に捕らえられた可哀想なペットを助ける〟と聞かされていたんですが……、どうやら貴方は我々の想像を超える高貴な存在のようです」  もう一尾が続く。全員小型ネコのようだ。被った布の隙間から除く瞳孔の細い瞳が不気味で、思わず身震いしてしまう。四枚カラスのネコ達は、ふんふんと空中の匂いを、というか多分私の匂いを嗅ぎ、仰々しく両手を広げる。 「同胞達よ見なさい。彼女こそが、脆弱でか弱い存在がその知性で以て野性を支配する、紛うこと無い実例です。彼女は大型種と対等な契約を結んでいます」 「大型イヌという暴力の体現者、生身のヒトでありながら彼女はその身を捧げ、証を刻み付けることで従属させた。それは命がけの、覚悟の要ることでしょう」 「彼女は成し遂げた。二足が育んだ知性が、四足という暴力を凌駕したのです!」 5  ……なんか仰々しく言ってるけど、私がスレッタと交尾してるってことを高尚な感じで言ってるだけよね、これ。イヌネコにとって性交は別に隠したり恥ずかしがることではない。しかし知性ある彼ら的には迂遠な表現をすることこそが正しいらしい。シャディク達はその表現では分からないのか、何故ネコ達がそんなに私を褒めるのだろうという疑問を顔に浮かべていた。ネコ達は私の体を頭から足先まで見て、再度驚いたように鼻に手を当てて驚く。妙に芝居がかった仕草だ。 「それに、まぁなんということ! 貴方の飼い主はダイア種なのですね!?」 「あの巨躯の暴力性の迸りをその小さな体で受け止めて尚五体満足で立っているということは、本物のメスに対する紳士的振る舞いを引き出したということ!」 「つまり彼女はダイア種というこの社会に於いて最上位の存在に、己をツガイだと認めさせたのです! だからこその堂々たる態度、だからこその覇気!」 「彼女は支配されるペットなどではなく、暴力を従える本物の知性なのです!」  本当になんというか、馬鹿馬鹿しくて辟易する。彼女らはどうやら私とスレッタが交尾していることを〝高尚な知性が野蛮を支配している〟と解釈しているらしい。的外れにも程がある。私はただ、あの子と心から愛し合ってるだけなのに。 6  スレッタのそれで体を貫かれて忘我の快楽を貪ってる時間は、はっきり言って〝知性〟などという言葉から最も遠いものだ。あの時だけ、私はあの子に愛玩され溺愛され、暴力的なほどの愛情で胎を犯されて悦ぶただのメスになる。それは大型イヌに気に入られたいという打算でも、あの子を性的に支配してやろうという野心的冷徹な判断からでもなく、ただあの子が好きだからこの身の全てを捧げてあげたいだけなのだ。私は自分の意思でスレッタに蹂躙される悦びに身を浸して、自分の意思であの子を受け入れ、自分の意思であの子のツガイでいる。  それを、こいつらは自分たちの信望する思想に勝手に置き換えて、スレッタを私に従属する存在だと捉えている。それはやはり〝対等〟をはき違えた意見だ。 「はぁ、どうでも良いんだけどさ。そこまで分かるのになんで私を誘拐したの? 大型種の暴力性を恐れる癖に、それを呼び込む危険性を考えなかったわけ?」  四枚カラスのネコ達も、周囲の二足歩行主義者も訳が分からないという仕草でお互い顔を見合わせ、それからシャディクを見た。 「いえ、私達は同胞たる彼に依頼されたから手伝っただけですし……」  シャディクは、可哀想に、顔が真っ青になっていた。 7 「ま、ちょ、ちょっと待ってくれ。ミオリネ、君まさかあの大きなイヌとセッ……いや流石にそれは、え、本当なのか? ビジネス的な言い回しじゃなくて?」  どうやらまだそこの衝撃を飲み込めていなくて次に進めていない様子だ。教えてあげても良いが、まぁすぐに答えは〝来る〟だろうし、要らないかな? 「だからあの時にも言ったでしょう? スレッタは私を対等に扱って、大切にしてくれる。逃げる必要は無いし、私はあの子の傍に居たいの」  この社会を壊すべき場所だと定義してるシャディクからしたら、私は手を差し伸べて助けてあげるべき可哀想なペットに見えたのだろう。社会の底辺で燻っている知性を救い上げ、自分の理想とするヒトの国とやらに導く為に。 「だ、だがそれは……人は人と愛し合うべきで、獣の花嫁なんて正気じゃない!」  ケモノという言葉は初めて聞いたが、多分侮蔑的表現なのだろう。シャディクは先程までの庇護欲と上から目線の慈愛で満ちていた目を恐怖に歪め、最早理解不可能な相手として戦慄の眼差しを私に向けている。意外な視線の変化を少し興味深く感じた。イヌネコは性交の痕跡を匂いで以て理解できてしまうけれど、ヒトだと目に見えない生々しい事実の提示に気持ち悪さを感じてしまうようだ。 8 「しかしミオリネ様は素晴らしい! 是非私達の活動に参加しませんか?」  一方本気でどうでも良く思い自分達には関係ないと思っているらしい二足歩行主義のイヌネコ達は、のほほんと私を勧誘してくる。どういう心境なのそれ。 「貴方であれば多くの同胞を導いていけるでしょう。これから来る飼い主にミオリネ様からお願いしてもらえませんか? 私達には貴方の知性が必要なのです」  うーむ、馬鹿馬鹿しいを通り越して馬鹿なのかもしれない。シャディクが依頼したから自分達のせいではないと思っているのだろう。スレッタが怒りを向けるべきはシャディクなのだから、そう思い込んでいる。恐らく四足や大型種という存在の暴力に怯えている彼らは、根本的にそれを見下してしまっているのだ。見下しているから、自分達の想像上の矮小な存在に当て嵌めて考えてしまっている。 「……あ? そうか、来るのか、ここに」  シャディクが呆然と呟く。彼の土のような健康的な肌は、今や青白い色を帯びていた。ふらついた彼を、周囲のヒト達が心配そうに支える。 「ツガイを盗られたイヌが、花嫁を取り返しに」  漸く気が付いたらしい。招待してしまったのは、私だけじゃないことに。 20260702 by トランジスタ 本投稿の無断での転載・複製・複写・販売・AI学習を禁止します。 四枚カラスのネコ達は一応ペイル4CEOのつもりなのだけど、別に名乗る必然性も無ければキャラのアピールをする必要性も無かったので妙な書き方になってしまった。ちなみにこいつらは利権の為に他のイヌネコを扇動しているだけなので、本当に啓蒙主義者なのではない。 そんで可愛そうなおシャ。ガチで可愛そう過ぎて…。いやあまりにも可哀想な展開だから止めようかどうしようかクソ悩んだんだけど、今回シャには頑張ってもらわないといけないのもあってここらで思い知らせておかないと…。俺のスレミオ二次創作の中で最も早くフラれ、スミセの事実を突きつけられる可哀想なおシャになってしまったな。

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