飼い主獣人スレッタとペット人間ミオリネさん:おまけ2

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・おまけ:ある専属ブローカーの覚書2 1  いや全く、あのお嬢様には困ったものだ。エランはこめかみをぐりぐりと圧迫しながら内心で溜息を吐く。ミオリネの存在というのは結構危うい、そのことは理解していたつもりだったがまさか誘拐されるなんて。ヒトというのは脆弱な生き物だという認識だったエランはそれはもう慌てた。ミオリネが居なくなってしまうとエランが抱えているジェターク社の証券も、日銭を稼ぐ方法も、稼働し始めたガンダム社もパァになってしまうからだ。 「いらっしゃ……あれ兄貴? 足もう大丈夫なの?」  会社の受付でだらしなく寝そべりながらヒトに何かを教えてやっていたネコが、扉をくぐって入って来たエランに気が付いて顔を上げる。彼はエランの血の繋がらない弟、ラカル種の小型ネコだ。今ではこうしてガンダム社の社員として働いている。いや本当にミオリネが無事で良かったな、とエランは何度目か分からない溜息を吐いて頭を振った。放蕩気味の弟の初の正社員就職であった。 「歩けはするんだが如何せん包帯が汚れる。ニカ来てる? 靴作って欲しくてさ」  ミオリネが外を歩く時に足全体を覆う靴というものを着けていたのを思い出したエランは、ニカがそれを作ってくれたと教えてもらっていた。 2 「来てるよー、裏でオジェロとヌーノに仕事教えてると思う」 「さんきゅ。……んで、お前は何やってんの? 仕事しろよ」  ティル、新顔のヒトと戦盤というボードゲームを囲んでいる弟を小突く。 「止めて兄貴! 今良い所なんだから!」  真面目に仕事をしていると思えばこれだ。直ぐ遊ぶことを考える弟に呆れかえりつつ、盤面を伺ってみる。……あと11手で詰みだな。エランは対面のティルの少し申し訳なさそうな顔を見て、吹き出さないようなんとか堪えた。  後で「だっさ、ヒトに負けてやんの」と煽るのを忘れないように。エランは頭の中のメモにそう書いて、受付を通り過ぎて奥へ進む。ミオリネの作ったガンダム社は酷い環境で飼われているヒトを買い上げ、社内の寝泊りスペースで生活してもらいながら文字の読み書き等の勉強をさせている。今会社に居るヒトはまだ頭数は少ないし読み書きがおぼつかないが、ゆくゆくは希望する雇い主の下に日数を決めて派遣される予定だ。モデルケースとして在籍しているリリッケとマルタンはいつも通りアリヤの所だろう。事業が黒字になるにはまだまだ時間がかかる。それまでミオリネが資金を拠出するらしい。果たして幾らかけてるのやら。 3  そういった都合上、ガンダム社の社内の雰囲気というのは会社と言うよりも寮に近い。ヒトだけで住んでいるのは危険な為、エランの弟達が住み込みで暮らしている。もう片方の弟が馴染めているかは甚だ疑問だったが。 「いやほんと、ミオリネには助けられっぱなしだな」  あの暴落した列車開発の証券を買い占めてこいと言われた時は流石に耳を疑った。だがミオリネはジェターク社社長と繋いだホットライン越しに、影のアドバイザーとしてなんとか話を聞かせることに成功したらしい。信じられないことに謝罪会見で「我々は一尾たりとも死者を出さなかった」と宣ったヴィムは多くの投資家を呆れさせたが、一方でその安全性の高さは何にも代えがたいと軍からの追加の資金提供を受けることになった。ジェターク社は瞬く間に列車事業の修正案を提示し、運行に向けて動き出している。何故か不思議と他の事業でも好調な様子で、おかげでエランが大量に追加購入した列車開発の証券も徐々に価格が戻り始めていた。勿論その後ろにはミオリネの影がある。秘密の会話の内容はエランですら知らされていないが、そう確信していた。なにせどこから聞きつけたのか、ホットラインのパスキーを渡してくる投資家が後を絶たないからだ。 4  エランは自身とミオリネがどれだけ危うい立場に在るのかをきちんと理解していた。複数の投資家とホットラインを繋いで、ミオリネがアドバイザーとして時に有益なアドバイスをし相互に利益を得ることで市場をコントロールするというのは、つまりインサイダー取引をするということだ。イヌネコの社会は自力救済が基本であり、ここには明文化されたルールは存在しない。それは同時に二尾を守る社会的機構も存在していないということでもある。そして多くの場合で誰かが儲けるということは誰かが損をするということだ。損をした誰かがミオリネにその補填をさせようと爪を向けて来る可能性を、エランは考えねばならなかった。  だがミオリネなら上手くやるのではないだろうか、エランはその可能性も考える。ヴィムは、あのクソボケ凡骨野郎はリオ種である。リオは多くのネコとは違い比較的社会性の高い血筋だが、同時に山ほど高いプライドでも有名だ。ミオリネは恐らくそのプライドを利用してヴィムに言うことを聞かせている。彼女の手腕ならばあるいは、ただ柔らかい肉だけを口にできるのではないか。  金が要るのだ。だが融資を受けるには信用が足りてない。会社の存続の為ミオリネが身銭を切り続けるのはあまりにも不健全だし、彼女の負担が大きすぎる。 5  頭を悩ませながら、エランは会社の中を通り抜け裏手にある小さな空地に出る。そこは誰が持ち込んだのか投棄されている伐られた木だとか金属棒だとかが転がっているのだが、ニカと彼女の薫陶を受けたオジェロとヌーノという二頭のヒトのせいですっかり技術者達の遊び場と化していた。 「なぁニカいる? 俺の靴作ってもらいたいんだけど……何してんの?」  どうせ遊んでいるのだろうなと思いながら扉を開けたが、案の定笑い声がする。見ればなにやら大きな木の板の前にチュチュが陣取り、周囲をオジェロとヌーノが取り囲んで盛り上がっている。チュチュが弄っている木の板には枠が着けられ釘が撃ち込まれており、球を弾いて狙った穴に入れる遊びをしているようだ。 「あ、エランさん、こんにちは。靴だよね、いいよサイズ測らせてくれる?」  オジェロとヌーノはまだ喋ることができない。それでもチュチュとは通じ合うものがあるのか、パチンパチンと球を弾いては狙った所に入っただのあらぬ方向に飛んで行っただので大盛り上がりしている。ふむ、とエランは興味深く思う。 「あぁアレ? 端材でオジェロが作ったんだよ。チュチュは気に入ったみたい」  ぽむ、とエランは肉球を合わせる。そうかこういうのだ。 6 「オジェロ、ヌーノ、お前らそれ幾つか数作れるか? いや〝それ〟っていうか、なんでも良いんだけど、玩具作って売ればちょっとは飯代になるだろ?」  つまり、まだ外に働きに出れるほど言葉には精通していないヒトでも出来るような仕事があれば、短期的な問題は解決してくれるのだ。問題なのは事業が回り出すまでの間ミオリネの負担が大きすぎることなのだから。 「おぉん? なんだよ突然来ておいて。商売の話か?」  首を傾げているチュチュにエランは舌打ちする。これだからイヌは、ミオリネなら今ので言いたいことを全部理解した上で反対意見や対案の提示をしてくれるのに。エランはそう思いかけたが、ミオリネを例にしてしまったら大抵のイヌネコは愚かなんだよなぁと思い直し、自戒した。 「なんだよ、イヌの癖に察し悪いな」 「あ゛ぁ゛ん? んだてめぇやんのか!?」  だがムカつきはしたので煽っておくのは忘れない。年長を敬えよガキ共。 「別に玩具じゃなくてもいいが、玩具ならお前ら沢山作ってるだろ? ニカの発案の靴もヒトに必要なもんなんだからヒトの手で作って売れば良い」 7  エランは自分の発想に機嫌を良くして頷く。自分でも良い案だと思う、後でミオリネに伝えておこう、あいつは自分で何でも出来るせいか自分から動かない奴を働かせるのが下手くそだからな。それから反応が返ってこないことに首を傾げ、一鼻と二頭が全く分からないという顔で自分を見ていることに気付き、憤慨した。 「飯代くらい稼げっつってんだよ! この会社は慈善事業じゃねぇんだ、働け!」  爪を出さないよう気を付けつつ、エランは全員の顔を肉球で叩く。働けと言われたオジェロとヌーノは嫌いな物を食べさせられたときのように嫌そうな顔をしていたが、エランがギロリと彼なりの威厳ある目つきで睨むと、そそくさと社屋に退散していった。彼の思う〝威厳〟には少々足りていなかったが。 「意外と面倒見いいんだな、お前」 「お兄ちゃんなんだもんねぇ」  イヌ二鼻の生暖かい目線から、エランは頬を掻きつつ逃げるように目を逸らす。会社は大事だ。パァになっては堪らない。自分と、今や切っても切り離せない経済的パートナーであるミオリネと、それから弟達の生活が懸かっているのだから。だからこのくらいの干渉は必要経費である、エランは自分にそう言い訳した。 8 「あ、エランさんだ。怪我大丈夫ですか?」  靴の為の採寸もして貰ったので会社を出ようとしたところを呼び止められる。顔を見るまでも無い、この控えめなのに自己主張の激しいダイア種特有の匂いはいつもミオリネから漂ってくる匂いと同じもの。エランはスレッタに会釈しつつ、そういえばクマとやりあったんだよな、とその巨躯をまじまじと見た。  その真っ黒な毛皮の下はきっと筋骨隆々なのだろう。手足が大きく、腕と脚は引き締まったイヌ特有の体躯。これが竜と並ぶクマと正面から戦い、ツガイであるミオリネを守り抜いぬいたのだ。ネコであるエランはツガイがどういうものなのか頭で理解はしていても、真の意味では分からない。だがクマに立ち向かったのなら、このイヌはそれほどあのヒトのメスを愛しているのだろうな、とは思った。その力はミオリネを守り、ガンダム社を守り、自分と弟達を守っている。 「? どうしました?」 「んにゃ、なんでも。……今度飯でも食いに行こうぜ、会社の皆でさ」  礼を言うには気恥ずかしく、エランは自然とそう誘っていた。そうか自分は会社の一員のつもりなんだなと思うと、少し照れ臭かった。 20260708 by トランジスタ 本投稿の無断での転載・複製・複写・販売・AI学習を禁止します。 様にお兄ちゃんをさせたい。意外と面倒見良いと思うんだよなあの人。 あ、なんか今日はお高いバスタオル届いてました。えへへ、こんなの貰って良いんですか返しませんよぐへへ。ありがたく使わせてもらいますね。

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