飼い主獣人スレッタとペット人間ミオリネさん:7-2(連載)

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7-2: 1  今の音は、牧畜関係に割り当てられている管楽器が暴落を示す低音だ。つまり何か事件か事故があって、市場が反応を示したということになる。だけど……。 「どういうこと? 尋常じゃないわよこれは……」  私にはピッチを定量化できるような耳も技術も無い。ヒトの私にはそれは分からないのだ。だがこの証券に割り当てられたメロディはマスターレコードを回転させて鳴らしている。つまりピッチとは再生速度と同義だ。机を叩いて速度を割り出せば、標準再生速度に対するおおよその上げ幅と下がり幅が推定できる。恐ろしいのは、その銘柄が先のジェターク社の列車開発事業と同レベルの価格水準を示していることだった。しかも単一の銘柄だけではない。多くの牧畜関係の証券が、価格の差こそあれ大幅な値崩れを起こしている。 「ミオリネさん! 今遠吠えで、郊外にある馬とノシシの牧場が襲撃を受けたって……。軍が出るような規模のもので、街の大型種に協力が要請されてます!」  たしかに、夏はドラゴンの襲撃が増えるというのはエランから訊いていた。この時期に牧畜関係の、しかも馬みたいに郊外の草原で半放し飼いにするような牧畜への投資は控えた方が良いと。でもそれは〝普段でもよくあること〟だ。 2 「ドラゴンだけじゃない、クマも仕掛けてきている、そうね?」  ベランダから駆けてきたスレッタにそう確認する。考えられるのはドラゴンの異常繁殖、災害級ドラゴンの来襲、もしくは〝別の要因〟が加担してる可能性だ。 「分かりません。けど呼びかけは〝大型種に〟向けてます。ラプターの異常繁殖なら中型も動員されるはずです。それに街そのものは静かです」 「シャディク……!」  恐らく彼なのだろう。一般の大型種の爪すら借りたいような災害級ドラゴンの襲来時には軍が警報を鳴り響かせ屋内や地下避難所への退避が呼びかけられる。けれどその兆候が無いのであれば、考えらえる可能性は非常に少ない。偶発的にか、それか誰かの意思が介在しているかの差だけだ。 「……ちっ、どこか動いたか」  ガランと音を立てて価格が上がり、またゴロンと音を立てて下がる音が続く。市場はパニックを起こしてる。恐らくは投資家達が混乱に乗じて利を得ようとしているが故の動きだろう。もし仮に、これがシャディクの画策したことなのであればその動きはあまり好ましくない。悪戯に混乱が広がるだけだ。 3  仮にこの混乱を主導しているのがシャディクだったとしたら、牧場を襲撃したというのはつまり市場経済と食糧に対する攻撃だろう。問題はそれを足掛かりにして何を最終目標としていて、次に彼がどう動くのか、それが全く予想が出来ないということだ。頭をこんこんと叩く、結論がどこかで引っかかっているような感じだった。恐らく情報が足りてないのだ。ならばどうする。 「スレッタ、あんた行くんでしょ? 私もついてく」 「えぇ!? 危険ですよ!? ダメです!」  スレッタは反射的に強く反対してくる。それは当然だろう。この前のこともある、スレッタのオスとしての本能はツガイに対して過保護だ。けれどそれではダメなのだ。私はスレッタのマズルにそっと手を当てて、引き寄せて、その青と緑の中間みたいな優しい色の目を真っすぐ見据えた。 「情報が足りないの。ここで閉じこもってても状況は分からない。もし私が予想している通りこれがシャディクの計画なら、軍では後手に回ることになる。……絶対に私一鼻で前には出ないから。心配なら、あんたが守って」  ぐっとスレッタは喉の奥を鳴らす。お願いだから頷いて欲しい。 4 「でも、……でもそれって、ミオリネさんがやる必要は……」 「スレッタ」  軍にはこれまで各街を守ってきた実績がある。そこは疑わない。けれど彼らが対処してきたのはあくまでも散発的な襲撃を繰り返し目前の食糧としての家畜を襲うようなクマやドラゴンだけだ。もしこれが社会の混乱をエスカレーションさせる目的で画策されたことなら、軍も探偵も出遅れる。恐らく今この可能性に気付けているのは、彼と同じだけ頭が回るヒトである私くらいだろう。 「無駄な心配ならそれでいいの。その時はとっとと事態を収拾して、家でゆっくりしましょ。でもそうじゃないなら大変な事になる。お願い」  スレッタは唸りながら私と玄関と、それからリビングの方をちらちらと交互に見る。折角快適な巣を作ったのに外に出るなんて、でもミオリネさんの意志は尊重したいし……。そういう心の声が聞こえてきそうで思わず笑ってしまった。 「分かりました……。でも絶対に私かエリクトか、ウェンディさん達の傍に居てくださいね? 絶対ですよ? 約束ですからね?」  そうか大型種への招集ってことは、彼女達も来るのか。 5  遠吠えによる大型種への招集は、要は未訓練でも規律を遵守する傾向の強いイヌを先行で呼び出す措置らしい。ネコは基本的にこういうのをやりたがらないし、そもそも団体行動が苦手だ。だからネコの大・中型種は状況が把握できてから局所的に投入される戦力として運用されることが多い。……筈なんだけど、集合場所にいる大きなネコに何故か死ぬほど睨まれている。なんでネコが居るんだ。 「ミオリネさーん、話聞いてきましたよ。やっぱりドラゴンの襲撃に合わせてクマの襲撃があったそうです。……あっ、グエルさんこんにちは!」  スレッタが大きな声で大きいネコに声をかける。ネコはなんかごにょごにょ言ってから、最終的に舌打ちしてそっぽを向いた。 「いいっていいって、あんなネコなんか気にしなくて」 「しかし連れてきて大丈夫だったのかい? 話を聞く感じ相当ヤバそうだけれど」  以前にも会ったウェンディさんと、それから彼女のパートナーだというナイラさんが私の傍に居る。それからエリクトもまた厳しい目で辺りを警戒していた。大型イヌが集まってると私はいつも以上に見上げないといけなくて大変だ。 「っていうかエリクトはなんでまだこっちいるの? 帰らなくていいの?」 6  私も思っていたことをスレッタが代弁してくれる。流石にこうイヌネコが多い所では私もおいそれと普通に喋る訳にはいかないので、うんうんと頷いておいた。 「まぁそう言わないでよ。その……エアリアルが言うこと聞いてくれなくて」  ダメダメじゃんそれは。呆れているとエリクトは慌てた様子で手を振り、違うんだよ、と言い訳を始める。確かに喧嘩の原因はエリクトにあるが、エアリアルは何故かこの街から離れようとはせず、かといってエリクトに従って帰ろうともしていないらしい。何かを警戒するかのように街周辺に居座っているとのこと。 「もしかして、この前のクマ二頭がまだ近くにいるってことなのかな?」 「あー、ミオリネちゃん攫ってったってやつ?」 「全然違うよウェンディ……、クマがヒト攫うわけないでしょ」  あの時のクマがまだ近くに居るから警戒している、というのはあり得そうな話だ。エアリアルは、あの時一回だけ会っただけだけど聡明なラプターに見えた。綺麗だったな。スレッタとエリクトの似た、あの優しい目を思い出した。 「とにかく、集められた大型種には街の周囲の警戒に手伝って欲しいとのことでした。探偵さんたちと協力してくださいって、フェン総帥の指示です」 7 「それで、えっと、ミオリネさん……その、ケナンジさんがですね?」  もじもじと指をいじりながらスレッタが鼻を向けた方には毎度おなじみブチ模様のおじさんネコが立っていた。成程、何か話したいことがあるのだろう。スレッタを見上げると心得たもので頷いてくれる。流石にここで喋る訳に行かない。 「そいつ……お前のペットか? なんで連れて来た、遊びじゃねぇんだぞ」  そう思ってウェンディさん達に一言断って離れようとしたとき、件のネコがスレッタに絡んできた。特徴的な濃い色の鬣、ジェタークの馬鹿社長と似てるネコだ。背後には黒のぶち模様の、けれど小さく鬣のある変なネコもいる。 「噂には聞いてたが、本当にペットのヒトをツガイにしてるんだな。……これだからイヌは。そんな脆弱な奴を伴侶にして、大型種として恥ずかしくねぇのかよ」  そのネコは苛立たし気に尾を揺らしながら吐き捨てる。 「そいつで良いなら、なんで俺の誘いをずっと断ってたんだっ……!」  あ、と思った。一瞬で気付いた。このネコはスレッタのことが好きらしい。 「俺がっ! 純潔だからか!? 俺がリオだから……っ!」 「兄さん!」 8  必死な様子で言い募るネコに、スレッタは首を振る。詳しい事情は分からないが、何か二鼻の間ではこれまでにもひと悶着あったようだ。私が見ていることに気がついたネコは一瞬私を睨みつけるが、すぐに視線を下げて苦し気に逸らす。 「グエルさんに迷惑かけたくなかったんです。純潔のリオの伴侶選びは私なんかよりもよっぽどデリケートでしたから。それに、今となってはもう、遅い話です」  彼の事情は分からない。けれどスレッタはもう私をツガイに選んでしまった。イヌにとってツガイの認定は一生を左右する重要な要素だ。ネコは結局、背を向けて歩き去るスレッタにそれ以上何も言えず、ぐっと言いたいことを飲んで俯いていた。アホ社長に似てると思ったが、彼よりは余程物分かりが良さそうだ。 「やー、青春ですねぇ。若いって良い。ネコはああやってオスとメスの駆け引きとかを学んでいくんですよ。あっ、もうツガイの二尾には関係ない話でしたね」  うっさいわよおじさん。なんぞ宣い始めたケナンジを睨むと、悪びれない様子でにやにやと笑っていた。が、すっと表情を真面目なものに切り替える。 「状況は最悪です。ミオリネお嬢さん、貴方の推測が正しかった。……恐らく我々は戦争を仕掛けられています。野良ヒトの集団と、クマから」 20260712 by トランジスタ 本投稿の無断での転載・複製・複写・販売・AI学習を禁止します。 あ、なんか枕も届きました。いやヒツジの要らない枕ってお高い奴だった気がん゙ん゙っ、有難く使わせてもらいます。すげぇ寝心地良かったです。 今回はおシャにガチ革命戦士をさせる予定である為、ちょっと間違えると悲惨なことになりそうなので気が抜けませんね。マジでシャ→ミの描写を一歩間違えると犬スレちゃんがミンチにしちゃいかねないから…。トラは原作本編よりもキャラを酷い目に合わせたくないみたいなお気持ち部分があるのでおシャと言えどミンチにはしたくなくて…。 ウェンディとナイラとエリクトが合流です。大型イヌs、ぜってぇハチャメチャ威圧感あるし、ちっちゃなヒト囲んでるから周りから凄い目で見られてそう。 グですか? 純潔リオでそもそも全方面にコンプレックスを抱えていて、偉大なリオ種オスのネコである父親を尊敬してもいるが純潔の血を汚すような真似(ラウ母に手を出してるとこ)とか、ラウ自身にもいろいろ思うところがあり、相当拗らせてる。リオは強くて偉大だが“ネコらしくないネコ”なので他のネコからしても変な奴ら扱いだし、かといってイヌほど社会性が高いわけでもないから、苦しむ運命にある。でもスレちゃんにとってはどうでもいいことなのでスルーです。かわいそ。 追記:致命的な誤字に気付いたんですけど、グの「純潔だからか!?」は正しくは純血です。リオの純血=生まれた時から遺伝的欠陥を持ってて純血の仔をこさえる義務がある、の意味です。処女云々の話ではなくてぇ だからグ→ラへの苦悩があるねんな。弟はちゃんとネコなのに、自分は狂ったネコの血筋だから

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