飼い主獣人スレッタとペット人間ミオリネさん:7-3(連載)

カテゴリー:
6
画像
拡大表示する画像の選択
拡大表示する画像の選択
拡大表示する画像の選択
拡大表示する画像の選択
拡大表示する画像の選択
拡大表示する画像の選択
拡大表示する画像の選択
拡大表示する画像の選択

7-3: 1 「襲撃があったのはこことここ、それからこことここの繁殖施設の四か所です」  物陰で、ケナンジさんが広げた地図をとんとんと爪で指してミオリネさんにひそひそと話しかける。私はその声を聞きながら、耳をピンと立てて誰も近付いてこないように見張りを務めていた。ミオリネさんが喋れるのは秘密ですからね。 「ノシシと馬と、ヒト……ここまさか……!?」 「えぇ、片方は家畜種ヒトの、もう片方は愛玩種ヒトの繁殖と教育を行う養育施設ですね。他はクマとドラゴンによって食い荒らされていましたが、養育施設だけは死傷者は職員と、僅かなヒトのみ。ヒトの殆どは無傷で逃げ出しています」  逃げたのか、逃がされたのかは分からないけれど、ミオリネさんみたいなヒトたちがたくさん居なくなったようだ。爪も牙も無いのにどうやって生きていくんだろう。この前のヒトが掲げていた粗末な武器を思い浮かべた。無理じゃない? 「家畜種は殺して、愛玩種だけ連れ去ったってこと?」 「そうなりますね。また普段のクマがやるような手当たり次第の破壊活動は見られず、どちらかと言うとイヌネコの排除が目的のように思える、との報告です」 「シャディク、あいつ、目的の為なら手段なんて問わないわけ?」 2  ミオリネさんは大きく舌打ちをした。ヒトなのに、同じヒトを殺して回ったってことかな? だとすると凄い覚悟だ。そりゃ私からしたらミオリネさんとそれ以外のヒトは全く違う存在だけど、ミオリネさんからしたらヒトは自分と同じヒトだろうし、〝家畜種だから〟ってクマが食い殺すのを見過ごすのは、仲間をドラゴンに喰わせて自分だけ助かろうとするみたいな話だろう。 「しかし、あの野良ヒトが裏に居るとして、クマにどうやって言うことを聞かせてるんです? 協力を要請して聞くような連中じゃないでしょう?」 「あるいは、制御なんてしてないのかも。限定的な情報だけを渡して、彼らが自己判断で今の状況を引き起こすように仕向けているのかもしれないわ」  ワオーンと遠吠えが聞こえて来る。クマたちが街の外縁部に取り付いているが、レックスを想定した強大な防壁にまごついているようだ。二鼻にそれを伝えると、ミオリネさんは眉を寄せて怪訝な顔をした。 「そのくらい事前に想定できていないとおかしいわよ。クマって馬鹿なの?」 「クマはいろんなものに興味無いですけど馬鹿って訳じゃない筈ですよ。この前戦ったクマさんも喋るのは苦手そうでしたが、頭が悪い感じはしなかったです」 3  そもそも街の外縁部まで来ているというのが違和感がある。学校で習った、そしてこの前戦ったクマのイメージは、目先のご飯と楽しいことに集中しがちな性格の生き物だ。牧場を襲うのをそこそこにしてわざわざ面白くもなんともないイヌネコの街へ押し入ろうとするのは奇妙な行動に感じる。 「……このタイミングで災害級のドラゴンが襲って来るとか、ありますかね?」 「ひぇ、冗談でもそういうこと言わんといてくださいよぉ……」  ケナンジさんは首を竦めるけれど、彼らが社会を憎悪していて社会に対する攻撃を画策するとなると、私の頭だとそんなのしか考えられない。ドラゴンは誰にでも分かる脅威だからだ。ミオリネさんは首を横に振った。 「考えてても分からないわね。彼の目的はヒトの独立国家の樹立。でもその為に何をしようとしているかは今の所不明。物の流通が止まるから、経済的な打撃は大きい。短期的には良くても、長引くと大変なことになるわね」  ケナンジさんも頷く。私は話の流れが良く分かっていないので、ただ街の治安維持のために頑張ろうと意気込む。良く分からないけれど、街の皆の安全を守ればいいんだよね。クマとか、混乱に乗じたラプターの襲撃とかに備えなきゃ。 4 「ヒトは知性の紛い物、二足を模倣するだけの家畜に過ぎず、それをダイアという野蛮が庇護することは我々の尊厳や社会秩序を棄損する行為に他ならない!」 「そーだそーだ! キメェんだよ食用家畜が堂々と歩きやがって!」  ふわっと欠伸を噛み殺す。パトロールとしてミオリネさんと街を歩いていたら絡まれた、というのが現状だ。隣のエリクトが目だけでこちらを見て、何こいつら、と訊ねてくるので「二足歩行主義者たちですよ」と応える。何と言うか、彼らの中にも思想に違いがあるんだろう。この前ミオリネさんを攫った啓蒙主義派閥とやらはミオリネさんを歓迎している様子だった。けれど多分、このイヌネコは随分前にミオリネさんに絡んでた派閥なのだろう。ミオリネさんが二足歩行するヒトであることに敵意を向け、私たちがツガイなことも気に入らない様子だ。 「ダイアもダイアだぞ! きしょペット守ってる暇あったらクマ殺してこいや!」 「野蛮な大型種はこういう時一番に戦いに行くべきでしょ! 役立たず!」  八鼻くらいのイヌネコが口々に叫ぶ。飛び交う怒号に辺りは騒然と……はしていなかった。多くのイヌネコはクマの襲撃を気にかけながらも日常生活を続けていて、治安を守る大型種の妨害をしている彼らを冷ややかな目で見ている。 5 「四足の野蛮を盾にすれば家畜のてめぇが市民みたいなツラ出来るとでも思ったのか? 勘違いしてんじゃねぇよ食用肉が! 今すぐその嘘の二足歩行を辞めやがれ! 犯罪だろうが! おい大型はこいつを取り締まれよ! 今すぐ殺せ!」 「うーん、見てると面白いけど、どうしようねこれ?」  エリクトが髭を整えながら困ったように呟く。対応に困るよねぇ、これ。しかも何が言いたいのかぶっちゃけ分からない。ハンザイってなんだろう。 「縛っておきましょうか? 暴れられても困りますし……」 「っ! 暴力をふるって市民を黙らせようとしている! 皆! スクラムだ!」  二足歩行主義者たちは吠え、横並びになってお互いの肩と首の上に腕を置き、互い違いに腕をがっしりと組み合う体勢を取る。何あれ、意味ねぇだろ、という声に出されない呟きが周囲から漏れた。二足のままお互いに肩を組み合う体勢は四足よりも不安定だし、所詮は小型と中型のイヌネコ。簡単に蹴散らせそうだ。 「やはり底辺であるヒトとまぐわうような大型はその性根も価値観も歪んでいる! クマのような災害が街に引き寄せられてしまうのも、その歪みが原因だ!」 「そうだ! 上位種の権力にしがみついて我々の特権を模倣する家畜を許すな!」 6  上位種? 権力? 知らない単語だらけだ。首を傾げているとミオリネさんに服の端をちょいちょいと引かれた。彼女は私を見ながらゆっくりと首を横に振り、相手にするなと伝えてくる。周囲のイヌネコ達も呆れ果てていて、大声で喚く奴らに迷惑している、早くどっかへやってくれと合図してくる。しょうがない、騒ぎが収まるまで静かにしててもらおうか。そう思って一歩前に出ようとした。 「二足歩行を模倣している家畜ってのは、君達のことだろう?」  聞き覚えのある声が響いた。これは、えっと名前はシャディクさんだっけ、あの浅黒い肌の野良のヒト。二回もミオリネさんにちょっかいをかけて来た彼だ。反射的に四足になって頭を下げて、いつでも飛び出せる姿勢を取った。風下の狭い路地から数十頭のヒトが走り出てくる。彼らは草と土の匂いを上から擦りつけて匂いを誤魔化し、手には槍のような武器や小筒のようなものを持っていた。 「うっわ……何あの動き……きも……」  誰かが呟いたが、きっとこの場のイヌネコは誰しもそう感じただろう。彼らの動きは一糸の乱れも無く完全に同期されていて、まるで彼ら自身の意思など介在していないかのように機械的に、素早く陣形を組んで武器を構えたからだ。 7  イヌとネコが集団で動く時そこには必ず乱れや小さな衝突が生じ、音として聞こえて来る。けれど彼らにはそれが無い。一声も発さず、噛み合った歯車が回るみたいに機械的に、一つの統一された意思があるみたいに動く。それは例えば蜂や蟻の群れのような、このサイズの生き物ではあり得ない気持ち悪さがあった。彼ら自身は緊張や恐怖といった感情を纏っているのに、何処までも自動で動いている、動ける、そういう兵士たちなのだろう。ぞっとしないや。 「イヌとネコは人のような二足を模倣することでその文明を発達させてきた。だがここにあるのは厳格なルールによって統制された社会ではなく、単に弱肉強食をシステム化しただけの野生の在り方でしかない。そんなものは社会ではない」  シャディクさんがなにやら演説を始める。このヒトも長々と喋るの好きだよなぁ。周囲のイヌネコも、二足歩行主義者たちも、呆然と彼らを見ていた。 「弱肉強食の世界では力だけが全てだ。人には、俺達には考える力があるのに、お前達は家畜と同じ扱いしかしない、何故か? お前達が本質的に牙と爪に依って生きながらえて来た獣に過ぎないからだ! お前達が俺達人の真の知性を暴力で虐げることでしか己の優位性を主張できない、哀れな〝モドキ〟だからだ!」 8  皆が呆然としているのは愛玩種のヒトが流暢に喋っているからなのか、それともその内容があまりにもアレだからだろうか。どうしようかなと思っている内に、ミオリネさんが前に出る。一瞬私を見上げて、任せてと言いたげに頷いた。 「言うことに欠いてそれ? イヌネコの爪と牙を否定したところで、あんた達が武装し暴力で私達を脅かそうとしていることは正当化されないわよ。第一……」 「黙っててくれミオリネ。今日は君と楽しくお喋りしに来た訳じゃない」  おや? これにはミオリネさんも吃驚していた。議論で論破すれば引き下がってくれるだろうと考えていたらしいミオリネさんは、突然ぶつけられた怒りを伴う激しい拒絶に困惑し、私とエリクトの顔を困ったように見上げた。 「俺達人は人の手で俺達の主権を、社会を、国を作り上げる。そして……」  すっとシャディクさんが片手を挙げると、整列していたヒト達が武器をこちらに向けて構える。細長い筒状の小筒よりは細い武器だ。火薬の匂いが強くした。 「俺達の国に、野蛮な獣は不要だ」  ズダダァン! と大きな音、至近距離に雷が落ちたかのようなあまりにも大きな音がした。腹に響くような低音。それは私の思考を吹き飛ばすのに十分だった。 20260713 by トランジスタ 本投稿の無断での転載・複製・複写・販売・AI学習を禁止します。 尺がねぇ。辛い。 二足歩行主義者の内、排外主義的連中は一見すると平等思想とか弱者救済とかを口にしてる様にも見えるんだけど、要するに言ってるのは「俺たちを特権階級としてちやほやしろ」という、社会インフラにタダ乗りした、まぁなんか時代が時代なら迷惑系Youtuberとかやってたろうなみたいな人達ですのであんまり同情はしなくてよい。 おシャ達は逆側でクマに圧力をかけさせ、匂い消しをしたうえで風下から街に侵入したんだぜ。あと持ってるのは火縄銃だぜ。イヌネコ社会での“銃”である小筒は、そのまま撃つとしこたまうるせぇし臭いしで不評だったので、めっちゃくちゃサイレンサーを噛ませてあってミさんが聞くとボフッくらいの音にしかならない。野良ヒトたちの銃? 付いてる訳無いよねぇ、サイレンサー。

6
6

コメントするにはログインが必要です

    User Icon

    トランジスタ a.k.a 烏丸虎

    ファンレターを送る