飼い主獣人スレッタとペット人間ミオリネさん:おまけ3(連載)

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おまけ:ある専属ブローカーの覚書3 1 「2号店を作るから暫く視察に行けってミオリネが言うから来たけどさぁ……」  なんだこの状況は。ミオリネに振り回され慣れてきたエランはもう大抵のことでは驚かないつもりだったが、今回もまた驚くことになった。なにせ先日の大騒動の首謀者と、ジェターク社の御曹司が目の前で喧嘩しているのだから。 「エラン! なんっで俺がこいつの面倒見なきゃなんねぇんだよ! 敵だろ!?」  リオ種、グエルの吠え声に涼しい顔で相対するヒト、シャディクは応える。 「それはこっちの台詞だよ。この野蛮なネコと一緒に仕事? 冗談じゃない」  まぁまぁとエランが手を上下に振るが、二鼻は気にもしない様子だ。 「はっ! 聞いたぜ、お前スレッタに負けたんだって? ヒトの分際で俺達大型種と力で張り合おうなんて思いあがるからそうなるんだ。立場くらい弁えろよ」 「クマと戦って負けて怪我して帰って来たお坊ちゃんが言うと説得力があるね。驕るのは勝者の特権だよ。俺達二人とも惨めな敗北者だと思うけど?」 「あ゛!? 誰のせいだと! てめぇがクマなんか連れてこなければ俺も今頃なぁ!」 「今頃、何だよ。ヒトを小型種を中型種を虐げて踏ん反り返ってたんだろ?」  こいつらに仕事をさせるのか、勘弁してくれ。エランは深くため息を吐いた。 2  シャディク率いるヒトの一団が暴力による革命を志し、失敗に終わったことを重く受け止めた軍は、再発防止の為ガンダム社にヒトの社会的地位向上に尽力せよと打診してきた。それはつまり、急激な変革は社会と自分達に不利益な為に許さないが、穏やかな革命なら受け入れるということだった。真っ当な手続きを踏むのなら、誰の権利も侵さないのなら、イヌネコの社会は容易にヒトを受け入れる。その先にイヌネコの手を借りたヒトが大多数の街の建設もあり得るだろうとミオリネが言うと、シャディクは感情が迷子になった表情で呆けていた。笑えば良いのか悲しめばいいのか分からないという顔だった。  とは言え大騒ぎを起こした者を街には置いておけない。シャディクを含めたヒト達は追放刑となった。追放刑というのは街から追い出すだけの刑だと聞いた時もシャディクは何とも言えない表情をしていた。元々野生で生きてるヒトにそれは刑として働いていないからだ。しかし一度文明に触れたヒトの中には不安そうな顔もあった。ドラゴンの脅威に怯えて生きるヒト達からすれば、クマが破れないほどの堅牢な壁と大型種という力に守られた街はさぞ羨ましかっただろう。そこでミオリネは思いついた。別の街でガンダム社2号店を運営してもらおうと。 3 「シャディクの監視、野生に戻りたくないヒトの保護、ヒトが賢い存在なのだという周知と市民へ受け入れてもらうためのロビー活動……良い案でしょ?」  名案だ。軍としても首謀者であるシャディクをただ逃がすのは嫌だったらしい、大喜びで隣町への護衛を申し出てくれた。しかし軍に頼めるのは道中の護衛だけ。2号店にもスレッタのような彼らの権利を保護する大型種の影が要る。問題を起こしたヒトということで最初は嫌がらせを受けることも想定されるからだ。そこでミオリネはヴィムに、アドバイザーとして何事か囁いたらしい。軍も注目しているヒト事業にジェターク社が協力する宣伝効果、シャディクという首謀者の監視の任という栄誉、2号店の顔役、得られる社会的信頼は厚いとかなんとか吹きこんだのだろう、いつの間にかグエルが出向してくることになっていた。  エランとミオリネはこの結果ににやりと悪い笑みを浮かべた。グエルはジェターク社の御曹司、純血のリオ種でヴィムの正当な後継者だ。ヴィムからしたら何よりも信頼している息子に難事を任せたつもりなんだろうが、ミオリネからしたら〝ジェタークの後継〟〝純血のリオ〟という社会的地位、そして彼自身の安全保障能力を、格安で掠め取ったに等しい。 4  本当に、アレは傑作だった。エランは思い出して嗤う。ヴィムは己が蔑んだミオリネが、実はここ最近頼り通しだった受話器の向こうのアドバイザーであること、そして彼女が今列車の証券の殆どを握っていてやろうと思えばジェターク社をいとも容易く潰せること、その彼女に息子の身柄を格安で騙し取られたことを知って、顎が外れるんじゃないかと言うくらい大口を開けてひっくり返ることになった。なにせ馬鹿なイヌに囲われた性処理用の愛玩ペットと侮蔑したミオリネにコテンパンに負けたのだ。市場に於いて契約は絶対、ヴィムは己の体面の為だけに契約を反故にすることが出来ない。黙って敗北を噛み締めるしかないのだ。  大体リオ種の純血というのは確かに尊敬の対象だが、同時に彼らは〝バグった異常なネコ〟だ。群れるし、純血主義だし、そのくせ遺伝的欠陥を抱えてるが故にプライドが肥大化している。イヌに対しても強い敵愾心があるらしい。ヴィムも息子を愛してはいるんだろうが、どうせ適当な純血のリオを伴侶として宛がうような、言わば一族の為の道具のような行為を強要するであろうことは想像に難くなかった。自身の意思で生涯の伴侶を見つけ出したミオリネからすれば、彼の環境は手を差し伸べたくなるものだったのだろう。彼女は認めないだろうが。 5  だが、先行きは暗澹としていた。ここまで二鼻の相性が悪いとは。 「ミオリネや俺を救わなかった〝社会〟の代表みたいなネコが一丁前に被害者面して、悲壮な顔で重罪人の監視をしますって顔してたら、そりゃムカつくだろ」 「お前こそ散々仲間を犠牲にしておいて『責任は俺が負う』ってカッコつけたって聞いたぞ! アルファだったんだろ!? 敗北の責任取るのは当然だろうが!」 「じゃあお前も敗北の責任を取るのか!? 怪我して別の街に出向って、要は追放だろ!? 純血主義の父親からしたらお前の価値はもう血にしか無いんだな!?」 「っ、父さんを侮辱するな!!」 「いや、言わせてもらう! ああいうネコが居るからこの社会はダメなんだ!」  まぁ、一応理性的に喧嘩はしているな、とエランは頷く。怒鳴り合いながらヒートアップしてきたグエルはシャディクの頭だの頬だのを手で挟んだり捏ねたりし始めていたが、爪を出さない配慮は出来ているしシャディクも苦しそうにはしていない。それに二鼻ともここで働くことには納得してくれているのだ。シャディクは生き残ったヒトに対する責任があるし、ミオリネの理想を実現することに否応はない。グエルもまた、2号店を成功させる強い動機がある。 6 「おらー、いい加減にしろガキどもー」  とりあえず後ろから蹴とばして喧嘩を止める。弟を多く持つお兄ちゃんはこの程度では動じないのである。動じないが切実に仲良くして欲しい。 「文句言ったってお嬢の意向なんだから覆んねぇぞ」  そもそもこれがミオリネの打てる最善手であり、軍の意向も絡んでいるのだから、簡単には覆らない。残りは二鼻の腹立ちだけである。 「シャディクは2号店で保護・教育するヒトの管理な、元々知り合いだから楽なもんだろ。そんでグエルの御曹司は定期的にここ出入りしたりマーキングしたり、不審者叩き出したり嫌がらせに来る奴ら叩き出したりすること。わかったか?」  無言のままそっぽを向く二人に、エランは溜息を吐く。本当に弟達を相手にしてるような気分だ。嫌いだから協力したくないなんて、ガキかよ。ガキか。 「はー……なんだよそんなに嫌い? 失恋したもん同士仲良くしろよな」  グエルはエランの言葉に肩を落とす。強いスレッタへの恋心を、真正面から否定され、自分が出る幕もなく成立したツガイを鼻で分からせられてしまっている。失恋の痛みは癒えていないが、現実は受け止めなければならなかった。 7 「は? いや俺は、別にミオリネのことが恋愛として好きだった訳じゃ……」  エランは一瞬で察した。こいつ面倒くさいタイプだと。 「オスがメスに入れ込んで必死で俺のものになってくれって懇願したんだろ? 恋じゃなきゃ何? 伴侶にしたいって希望じゃなくても、そういう話じゃん」  実際、エランからすればミオリネに対するシャディクの執着はそうとしか解釈できなかった。エランが知っているのは実際に起こった事件のことではなく、結果と、最後に二頭が喋っていた時の態度だけだからだ。 「いやぁ、あんだけ未練たらたらの目しといてラブじゃないですはちょっと無理あんだろ。察した旦那がかなりピリピリしてたじゃん」  殺しちゃうんじゃないかと思ったんだよな、とエランは心の中でだけ付け加える。イヌのツガイへの執着はすさまじいと聞くが、スレッタのあの様子を見れば納得であった。一方、指摘されたシャディクは何か言いたげに口をもごもごさせ、目を逸らしながら小さい声で、「そもそもあの二人が愛し合ってるってのが俺には信用できないんだ」と悪態を吐いた。勿論エランとグエルにはハッキリと聞こえたが。エランは何でそんな所に引っかかるのか分からず首を傾げる。 8 「こんにちわー、むさくるしい所に次期差配がわざわざ視察に来ましたよぉ~」  そんな中セセリアが社屋に入ってきた。一応、ガンダム社はセントラル・ブリオン・トラストの軒先を借りているので、その視察だろう。 「いやぁ、社長と副社長、今日もスゴかったですねぇ。週三って信じられない頻度なのもそうですが、あの大きさ受け入れてるってのもまた愛なんですかね?」 「「うわーっ!」」  突然のセセリアの大暴露に被弾したオス二鼻が大声を上げて耳を塞ぐ。直視し難い事実だったようだと納得したエランとは別に、セセリアはにやりと笑う。 「知ってますか? ヒトはどうだか知りませんけど、私達にとって交尾ってメスが身体を許して初めて成り立つものなので、つまり副社長さんは週三回……」  それはまさに新しい玩具を見つけた捕食者の笑みであった。匂いで分かってしまうことから性におおらかなイヌネコは多い。 「しかもツガイ認定は挿入と射精がトリガーなのであのお二方はつまり……」 「ぐぅー!? なんなんだこのネコ突然来て他人の性事情をペラペラと!?」  2号店は前途多難だな。のた打ち回るオス共を見て、エランは溜息を吐いた。 20260721 by トランジスタ 本投稿の無断での転載・複製・複写・販売・AI学習を禁止します。 死体蹴り、兼、丸く収めたよの話。野良ヒト一団にガールズ入ってる話とかも書きたかったけど尺が無かった。 雌雄同体:一部の種に見られるオスメスの生殖器を両方持つ特殊個体のこと。オスのメス化なのか、メスのオス化なのは議論に決着が付いていない。特殊な生殖システムを帯びていて、染色体の差や免疫拒絶の問題をすっ飛ばして仔を為せる。その為本来あり得ない単体生殖やイヌネコ間での繁殖が可能。古代にイヌネコが真正面から竜と戦い、かつまだ技術的に未熟だった時期に種の維持のため変異として生まれた性質だとも、アルファとしてのホルモンが暴走することによるメスのオス化現象なのだとも言われている。 本人たちが自分のことをオスメスどっちだと思っているかは本人の自認にのみ依る。スレちゃんは自認はメス。 リオ種:雌雄同体が生んだ"狂ったネコ"。個体数が激減した際に特定の雌雄同体の個体が鬼ほど自己繁殖と近親繁殖を繰り返して個体数を回復させようと試み、そのせいで恐らくその個体が持っていた"比較的群れを好む"や"誇り高い"などの性質が種全体に均一化された可哀想なネコ達。あくまでもネコなので群れとしてはイヌに劣り、異常に身内意識が強かったりする為ネコからは毛嫌いされる。一方でその力はタイガと並び、大型種として尊敬もされている為、大体どの個体も自認やら自尊心やらがバグる。 ・ヴィム、純血オス。知っての通りモラハラのカス。純血主義で純血である自分とグエルが誇り。 ・グエル、純血オス。純血主義の為に無理矢理繁殖相手をあてがわれそうだった。できるだけ血が遠いリオと仔を作らねばならず、つまりミオリネが受けてた血統管理とほぼ変わらない理不尽な扱いでしたね。自分のことを一族維持の為の道具扱いな父親に嫌気は差していたが、強く雄々しい大型種の背中を見て育ってしまったため多方向に死ぬほど拗れ散らかした。ヴィムがやらかしたのでガンダム社2号店店長に就任した。弟は家を出て自由に生きて欲しいと思っている。 ・ラウダ、パレオとのハーフ、オス。ヴィムの火遊びで生まれた仔。当然何の期待もされておらず部下と変わらない扱いで暮らして来た。リオではない血が入っている為、遺伝的欠陥等は薄まっているし出奔して自由に生きる権利があるが、強く雄々しい大型種である父への憧れ、ハーフの自分を弟として扱ってくれる兄への敬愛が邪魔をして家を出られないでいる。兄を苦しめているリオの血を心底憎悪していて、ストレスで鬣を引きちぎったりしてる。可哀想だね。

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