


8-6 1 ヴァナディースで過ごして三日。よく分かったのは辺境で暮らすということの過酷さだった。軍の巡回も防衛設備も無く、絶えず竜の襲撃があり、ちょっとした用の為に壁の外に出たりなんかしたら中小型のイヌネコはあっという間に喰われてしまう。滞在中、家畜の世話の為にイヌが一鼻外に歩いていき、それが次の瞬間鋭い破裂音と共に吹っ飛び、そのまま動かなくなる姿を目撃した。スレッタが言うには、プテラの狩りは空の高い所から超高速で突っ込んで来て、その速度と質量で獲物を吹き飛ばして殺すやり方なのだそうだ。通りで犀のような足の遅い生物に頑丈な車を牽かせようという発想になるわけだ。 一つ納得があった。スレッタやエリクトは大型イヌであることを、すなわち自分より弱い者を守る義務があり、彼らから尊敬される存在であるということを自然体で受け入れている。その理由は、彼女達が生まれ育ったこの環境にあったのだろう。都市で生まれ育ったイヌネコとは共有している前提が違うのだ。 イヌとネコは、一緒に生きると決めて共に歩み、文明化してきた。街の防壁の中では竜の脅威を忘れて暮らせるようになったのだ。そのことを、多分多くのイヌネコは忘れてしまったのだろう。だから二足歩行主義なんてものが生まれた。 2 寂しい話だな、と思う。外敵を意識しなくて済む様になってしまったせいで最も身近にある防衛戦力を疎むなんて、技術が進んで暮らしが楽になっていくことが本当に良いことなのか考えてしまう。二足歩行主義者には比較的ネコが多かった、群れの繋がりが希薄で市場経済を担うことが多いネコからすると、大型種の暴力はいずれ自身の権利を脅かすかもしれない脅威に思えてしまうのだろう。 「ミオリネ、どうしたの」「悲しい匂いしてる」「何かあった? 痛い?」 圧し掛かってくる赤と黒の毛玉達にもみくちゃにされながら、なんでも無いと答える。逆にイヌはあまり経済の場で見かけない。確か歴史的にもイヌは肉体労働を好む傾向があり、かなり現場主義的だと聞いている。このヴァナディースもネコよりも圧倒的にイヌの方が多い。それに群れと秩序を大事にする、だから大型種を自分に危害を加える者ではなく、秩序の守り手として自然に受容できるんだろう。今私をもみくちゃにしてるスレッタの妹達もいずれ社会に出て行って、スレッタと同じように野蛮だなんだと言われてしまうんだろうか。 「準備できましたよ、ミオリネさん。そろそろ出発しましょうか」 スレッタが私を抱き上げる。この子の腕はこんなに優しくて温かいのにな。 3 行きはウェンディさん達の荷物もあったから犀車を使ったけれど、帰りはスレッタが単身で走ることになった。またあのおんぶ袋でスレッタのおっぱいを眺める時間か。いや嫌とかではないんだけど、こう、ね? わかるでしょ? とはいえ一番近い街まで一日では付かない筈だ。夏の暑さを避ける為に移動は夜間だし、途中で休憩する必要がある。スレッタは何とかすると言っているので、私の分の一食分の携行食糧と水だけわけてもらった。 「エアリアルは先に行っててね。大岩のところで待ち合わせしよう」 ギャウとエアリアルが応えて、一度私に頭を擦りつけてから走り去る。どうしてそうなったのかはさっぱり分からないけれど、エアリアルの家出は継続中らしい。いつの間にかスレッタが学校を卒業したら大きな家を買って一緒に暮らすことになってた。お金持ちの家には警備用のペットとかを飼うのが一般的だとヴィムが言っていたのを思い出したからだ。竜はどうなんだろうとは思ったが、スレッタに頼まれたら私は否とは言えない。我ながらこの子には激アマなのだ。 「寂しくなるわね。先生があんなにはしゃいでるの見たの久しぶりだったから」 エルノラさんが眦を下げて鼻を鳴らす。先生というのはここの代表のことだ。 4 「いえ、お忙しいところすいませんでしたと、カルド先生にお伝えください」 カルド先生はヴァナディースの代表だそうで何度か話をした。私よりも背が低く、なんでも小型ネコの中でも最も小さいベンガル種という血筋なんだそうだ。知的で物静かだがハキハキと喋る、優しい目をしたネコだった。 「二鼻とも、いつでも帰っておいで。道中気を付けてね」 ナディムさんがスレッタとハグした後、私にも手を広げる。それに応じてスレッタの両親とハグを交わしながら、あぁ自分はもうこのイヌ達の家族なんだなとじんわりと思った。実の父親、親父のことはいつか施設に迎えに行くつもりだ。会社を大きくして、堂々と正式な手続きで出迎えて、どうだと言ってやるのだ。 これが私の家族だと。賢くなり過ぎた私が、ヒトの身で手に入れた絆なのだと。 「それじゃあ行ってきます! お母さん、お父さん、皆、またね!」 私をおんぶ袋に詰めて前側に抱えた後、スレッタは元気よく叫んだ。私もおんぶ袋からちょっと顔を出して手を振る。見事な赤毛と、見事な黒毛のイヌが二鼻、彼女達の仔に囲まれて穏やかに手を振り返してくれていた。 「途中に丁度いいスペースの洞窟があるんです。そこまで一気に駆けますよ!」 5 夜間に走って昼間に寝る。普段と逆転してるのはイヌが暑さにあまり強くないからだ。その為スレッタが一日目の休憩スペースに選んだのは自然にできた洞窟で、確かに奥はひんやりと涼しく警戒しやすい立地で丁度良かった。 「まぁ、こうなる気はしていたわ……っぅ、ん……」 裸にひん剥かれ、スレッタの熱い舌に体中を、特に入念に股間を舐められながら、私は喘ぎとも溜息とも付かない息を吐く。スレッタのメスとしての本能はただ一緒にいるだけでも十分に満足されるようなのだけれど、オスとしての本能はそうではない。計一週間近くお預けにされていたそれが、ついに爆発したのだ。 警戒はエアリアルがしてくれるそうだ。洞窟の入り口にどこか誇らしげな様子で座っている白と青のラプターを横目に、私も諦めて流れに身を任せることにする。というか、私もここしばらくお預けされてて思ったよりも飢えていたみたい。 「スレッタ、私……」 「……もう我慢できないですか? ミオリネさんのここ、お汁いっぱいですもんね。期待してくれてますか? えへへ……じゃあ挿入れちゃいますね……」 スレッタのそれが入り口に押し当てられる感覚に、私は頭を後ろに逸らす。 6 「あっ、あぁっ、スレッタ……っ、奥、おくまで……っ!」 開発されきった体は従順だ。意識せずとも脚を開いて、スレッタが挿入しやすい格好を取ってしまう。股間もきっと愛液でびしょびしょなのだろう。 「ミオリネさんっ、ミオリネさん……っ、かわいいです……好き、大好き」 短くも長い間スレッタが私のナカで前後する。この擦れる感じはあまり好きじゃない。けれどこの後気持ち良いのが来ると教え込まれた体は、スレッタに勃起してもらおうと勝手に喘いで締め付けてる。与えられる感覚よりもこれからのことに期待して頭がぼーっとしてきてしまう。早く、早く欲しい。お腹に、奥に。 「スレッタ、スレッタ……っ、私も、好き、大好き……あぁ!」 「はい、はい……っ! ナカ、入れますよ……。いっぱいきもちよくなって……」 ミチミチと入り口を押し広げてスレッタの根球が入ってくる。入り切ってしまえば、ギチギチと私の胎を押し上げながらそこで大きくなって、私の体をスレッタの陰茎が縫い留めてしまう。こうなってしまったらもうだめだ。思考なんて白飛びして何も考えられなくなるのだ。私が〝きもちいい〟で、塗りつぶされる。 「でます、ミオリネさん……っ、私のぜんぶ、受け止めて……っ!」 7 熱いスレッタの力強い生命力がお腹を塗りつぶす。ドクドクと脈動するごとに、私の知性も感覚も、溶けてスレッタと一つになる。胎の感覚以外はどっかにいってしまった。スレッタの体に沈み込んで、とけて、混ざって。沈んでいく。 スレッタの温かい体温、柔らかい毛。息を吸うたびに入り込んでくるスレッタの匂い。愛してる、愛してると繰り返してくれるスレッタの声。応えたい、私も愛してるって伝えたい。けど、どうやって声を出せばいいのかがわからないや。息を吸ってるのか吐いているかもわからない。私、私って何。 私はスレッタのツガイ、お嫁さん。今は交尾してる。きもちいい。子宮でスレッタの精液受け止めてる。お腹がスレッタでいっぱい。しあわせ。 「ミオリネさん……、私の仔、孕んで……っ、孕んで、ください……!」 孕む? そっか。孕めるんだ。私スレッタの仔、産めるんだ。 「あはっ、ミオリネさん嬉しそう……そうなるといいですね! 仔共いっぱいつくって、幸せな家族、作りましょう。はっ、ぅん、……。十鼻くらい欲しいかな」 スレッタの言ってる言葉の意味を考えたいけどよくわからないや。起きたら、起きたら考える。今はただ、このきもちよさに、沈んでいたい。 8 パチッと目を覚ました。体中が心地よい怠さに包まれている。いや本当に、交尾中の記憶はあるにはあるんだけど、思考が全部飛んでてあとで気持ちよかったなぁと思い出す羽目になってるな。私を抱え込んでいるスレッタの体温に頬を摺り寄せる。寝てるようだ。時間は分からないけれど、夕方くらいかな? スレッタと愛し合った事実を、膨らんだ腹が示してくれていた。この子宮にスレッタの子種が詰め込まれている。ナディムさんの言うことが本当なら、私はスレッタの仔を孕むことになる。私達の仔は、きっと社会からは異質な目で見られるだろう。それはスレッタやその家族が受けてきた偏見の目よりも更に重いものになる筈だ。ヒトは家畜で、イヌとは同じになれないのだから。 ギャウ、とエアリアルが小さく鳴く。いつの間にか傍まで来ていたようだ。真っ白な羽根に青の鱗、大きな体に逞しい足に鋭い爪。竜は、特にラプターのようなドラゴンは恐れられる存在らしい。彼女は心配ない、寝てなさいと言いたげに、私を手の羽根でぱさぱさと撫でる。優しい子だ、上手くやっていけると思う。 先のことは分からないけれど、悩んでいる程には大変な事にはならないだろう。何となくそう思った。私にはスレッタだけじゃなく、仲間が沢山いるのだから。 20260801 by トランジスタ 本投稿の無断での転載・複製・複写・販売・AI学習を禁止します。 次エピローグ的9話入れて完結っす。
コメントするにはログインが必要です