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2022/07/23 08:03

猫の小町 2.渡航

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 巨大な成田空港の第二ターミナルのロビーに入ると、外では強い風のせいでそれ以外の如何なる音も聞き取れなかった耳が信じられない程他の利用客の声に鋭く反応した。その風の音は完全にシャットアウトされてはいたがロビーの内側から窓を通して見える外の景色が薄っすらと土埃でぼやけているのがその強さを物語っていた。たまに紙切れがその土埃に混じって行き場所を心得ているかのように空間を横切っていった。ロビーに入ってくる女の旅行者の中には髪の毛を片手で押さえている女も何人かいた。頭に被せた小さな帽子を手で押さえている子供もいた。  思った通り空港は空いていた。山瀬はゆっくりチェックインしようと思っていた。いつもなら浮き浮き気分で直ぐにチェックインを済ませなるべく自分の好きな席を指定するのだが、恐らく自分の搭乗する機が満員のはずはないという予想の基に只々だらだらと不貞腐れた子供のように空港の中を散策していた。そうしてようやくチェックインカウンターへ出向いた。  当然のこと席を指定することは出来なかったが、離陸した後に席を移ればいいではないかと自分を慰めていた。ボーディングパスを見ると明らかに翼から後ろ側の席だった。山瀬は以前友人から飛行機が事故にあったとき後部座席は死ぬ確率が高いと聞かされそれを信じていた。それに翼より前の席なら飛行機のエンジン音が少しは気にならなくなることを知っていた。実のところ山瀬は飛行機が苦手だった。飛行機酔いはしないのだが、何百人という人間をその緊張感と一緒に乗せて飛ぶ飛行機が異常に大きな棺桶のように感じられて嫌だった。今回の旅は緊張感の他に自分の不安感も一緒に合わせて棺桶に押し込まれるのも山瀬のチェックインを遅らせた原因になっていた。  まばらになった待合ロビーには静けさが漂っていた。ゆっくりと立ち上がり、飛行機の出発時間直前に搭乗した山瀬は乗客の発する熱気に驚かされた。山瀬の予想は確実に外れていた。 「なんだ結構いるなあ…」 安い航空券を狙った旅行者や帰省の人たちが重なったらしい。座席に対して99%くらいの搭乗客が乗っているように見えた。要するに満員の状態だった。さっきチェックインカウンターで席を指定できなかった訳がこれで納得できた。  山瀬は飛行機が飛び立つ前から気疲れしてしまっていた。自分の席を見つけると軽い手荷物を座席の下に無理やり押し込み腰を下ろした。通路側の席に座れたことだけが山瀬の唯一の救いだった。トイレに行くときに寝ている隣の乗客を起こすのは誰にとっても気の引ける行為だ。それについては山瀬も例外ではなかった。山瀬もそれを心得ているので通路側に座ったときは、逆に窓側に座っている他の客に気を使ってなるべく目を閉じないようにしていた。今回はそれに当てはまった訳だ。とりあえず座席ベルトを締めて飛び発つ前の緊張のひと時を味わっていた。  風はまだ強かったが飛行機が離陸できない程のものではなく、しばらくしてから山瀬たちを乗せた機は上空でほぼ地面と平行に飛び始め、頭の上で光っていたベルト着用のマークもポーンという軽い音と同時に光を放たなくなった。乗客皆の緊張がほんのちょっと和らいだせいか、機内のあちらこちらで話し声がしていた。 「今回はどちらへお出かけですか」 山瀬の左側の席に座っている中年の男がふと声を掛けてきた。頭には白い髪のほうが黒いそれよりも多く混じっていた。丸顔にほんの少し大きめの眼とその両脇にできた小さな皺が男の与える印象を柔らかくしていた。歳は50歳過ぎくらいだろうと山瀬は思った。こういう閉ざされた緊張感の漂う空間に閉じ込められると、誰しも他人との会話が恋しくなるものだ。以前山瀬はおかしなことを考えたことがあった。もしこの大きなジャンボジェットにパイロット以外に自分だけしか乗っていなかったら、恐らく飛び立つ前に自分は降りてしまうのではないか…と。いくら短時間の飛行であったとしてもこの緊張感を分かち合う乗客が誰一人いない飛行機なんてまっぴらだ。それ故に、山瀬にとっても機内で話しかけられるというのは全くと言っていい程苦痛ではなかった。 「カミギン島まで行ってこようと思ってます」 山瀬の口が素直に男の問いに答えていた。 「そうですか。私はパラワンなんですよ…。会ってすぐの貴方にこんなことを言うのも何なんですがね、実は不幸ができてしまいましてね…」 こういう空間の中ではこういった不自然な会話が当たり前のように通用てしまう。この緊張感に満たされた閉ざされた空間以外で初めて会った赤の他人にいきなり不幸の話をする人間なんて恐らく皆無だろう。ただこういった状況下でこのような不自然な会話が起きてしまうことについても以前山瀬が考えていたことのひとつだった。不確実な死に対する恐怖感から来る告白のようなものなのではないかと山瀬は考えていた。山瀬にとってはこの不自然な会話もこの空間だけでは大いに有り得ることだった。いや、なければならないことだとも考えていた。 「そうですか。それは大変ですね。奥様のご家族が亡くなられたんですか」 日本人男性とフィリピン人女性が国際結婚をしている例は少なくはない。フィリピン人と日本人のごく普通の男女関係を知るごく普通の日本人だったらそう考えるのが当たり前のように、山瀬のその男に対する質問も的を射たものだった。ただ、たまに例外もあるものだ。男は少し考える時間を置いた。 「いえ、実の従兄弟が死んでしまいまして…」 山瀬は面食らった。たまたま隣り合った乗客が、内容はほんの少し違ったにしろ、同じような原因で旅をさせられているということに驚かされていた。ただ、山瀬の場合はあくまでも自殺の調査を依頼されているだけの身分だったので、見ず知らずの男にあっけらかんとそれを話すことは避けようと思った。機内食を食べ、その後ビールを飲んでいる間も山瀬はその男と軽い会話を交わしていたが、そのうち男は疲れたらしく目を閉じてしまった。  飛行機がマニラ・ニノイ・アキノ国際空港に吸い込まれるまで男は目を閉じていた。山瀬は男の顔をチラッと見ながら、幾田優子が考えているように、この男も自分の肉親の死に何か疑問を感じているのではないだろうかという思いに捉われていた。 「それじゃ、お気をつけて…」 山瀬は男にそう言い残して席を立ち先を急いでいる乗客に混じって飛行機を降りた。  空港に漂う空気の臭いが成田空港のそれとは違っていた。この国を真っ先に鼻で感じるのは自分だけだろうかと心の中で笑っていた。山瀬は腹いっぱいそのココナッツのような甘い香りを含んだ空気を吸い込んでみた。またフィリピンに来たんだなという感覚が山瀬の腹を満たしていった。    船がカミギン島に着いたのは丁度昼頃だった。乗客はそれぞれのスーツケースや手荷物を持って、先を争うように出口に向かって蟻のような行列を作っていた。山瀬は何気なくそれを観察していた。その蟻の行列に見飽きると、窓を透して見える船外の風景に目を向けた。窓の外には小さな港によくありがちな遠浅の海岸の風景を醸し出していた。着岸できない大きな船は一艘も停泊していなかった。船のエンジンの振動が水面を小刻みに揺らしているのがモザイクを見ているようで印象的だった。船体が作る影の部分を見つめると余計にそれが山瀬の目にはっきりと映し出された。山瀬はその影の部分と大陽の光を跳ね返している鏡のようなぎらぎらした部分とのコントラストに人間の表と裏の存在を見たような気がした。波は飽く迄も山瀬の訪問を受け入れているかのように静かだった。先を急ぐ乗客の話し声も山瀬にとっては心地よいものに聞こえた。かえって山瀬の気に障ったのは、乗ってきた船のエンジンのその騒音だった。約6時間の船旅で、彼の思考能力をまるで使い果たした雑巾のようにずたずたにし、役に立たせなくさせた轟音に憤りよりむしろ吐き気さえ感じていた。島に着いた後もこの轟音は回転数を下げただけで、乗客を直ぐにでも吐き出してしまいたいかのように未だ鳴り響いていた。いつもだったら同乗した乗客たちと先を争ってでも先に地面を踏みたい山瀬だったが、やはり今回の旅の目的がそれを邪魔し座席から立ち上がることでさえも難しくさせていた。  無精髭をはやし浅黒い顔色の船員がボーっと外を眺めて下船しようとしない山瀬を心配して声をかけてきた。 「大丈夫かい」 気がついてみるとさっきまで先を争うようにして出口に列を成していた乗客はもう数える程しか船内に残っていなかった。 「大丈夫。海が綺麗だったんでちょっと見とれていただけだよ」 座席の下に押し込んであった手荷物を引っ張り出し通路に出た。重い荷物を抱えた乗客はいないものかと一人の老いたポーターが山瀬の前までやってきたが、軽そうな山瀬の手荷物に目をやったかと思うと、つまらなそうに回れ右して出て行った。荷物は軽いのではなく、山瀬が軽々と持っていただけで実際には結構重かった。  船外に出てみると風は殆どなく、針のように刺さってくる陽の光で熱せられた肌は痛みさえ感じていた。印象的なモザイクを作り出している海面からもその針は飛び出してきているようだった。 「早めに宿を見つけないと」 山瀬はそう自分に言い聞かせると歩調をほんの少しだけ強めて歩き出した。  港でまず山瀬を迎えたのは、乗客を我先に取ろうとするトライシクルと呼ばれるサイドカー付きのオートバイのドライバー達だった。どこの空港、港でも客引きがいるのは当たり前のことだった。山瀬は気が狂った猿のように金網の向こう側で怒鳴っているドライバー達を横目に港の出口に急いだ。こんなとき山瀬はいつも迎えのある人たちのことを羨ましく思った。 「とにかく港から出て誰かに聞いてみよう」 再び歩く歩調を速め港の出口へと急いだ。  港を出てからも一人のドライバーが山瀬の後を追ってきた。 「コテージ。ビーチ」 こういうドライバーに捕まると後で高い運賃を請求されることになる。それを十分心得ている山瀬はそのしつこいドライバーに首と手を左右に振って見せた。ドライバーは何やらぶつぶつ文句のようなことを呟いていたが山瀬が客にならないことを悟ると、まだあちらこちらに散乱している外国人旅行者を捕まえて同じような質問をしていた。  視線を上げてみると小高い山々が山瀬の視界に入ってきた。緑が豊かなことはその色の濃さが物語っていた。その山に向かって走る道をゆっくり歩いていくと左側に食堂のような建物があった。山瀬はそこでコーヒーでも飲みながら宿の情報でも集めようと思った。  薄暗い食堂の中にはまだ客の食べた食事の匂いが漂っていた。 「コーヒーください」 注文すると同時にお金をカウンターの上に置いた。地方の、取り分け小さな島などに来ると高額紙幣はあまり役に立たない。山瀬はそれを知っているのでいつも小銭を貯めるよう心がけていた。あまり貯め過ぎると財布が重くなる一方なので上手に使わなくてはならない。カウンターに近いテーブルを見つけてそこに腰を下ろした。若いウェイトレスが小さいインスタントコーヒーの小袋とコーヒーカップになみなみ注いだお湯を山瀬の座っているテーブルに何の愛想もなく置いた。この国では殆ど全てと言っていい程ウェイトレスは死んでいるようにやる気がない。この若いウェイトレスも例外ではなかった。 「ちょっと訊いてもいいかな。この近所に安いホテルかコテージって知ってるかい」 ウェイトレスは最初山瀬の流暢なタガログ語に驚いたらしく、死んでいた目をほんの少しだけ大きくして見せた。その後ほんの少し考えている様子だったが何かを思い出したかのように呟いた。 「ありますよ。サミス・インっていうのが」 彼女の話だとサミス・インはそこからあまり遠くはなく歩いていける距離だということだった。レストランも経営しているので食事にも困らなくて済むというのがそのホテルの売り文句らしかった。山瀬はついでに小町の事件ことも聞いてみようと思った。 「つい最近日本人の女の人が自殺したって話聞いたことあるかな」ウェイトレスは山瀬のこの質問にも少し目を大きくして見せた。ただ今回は大きくした目をそのまま斜め上に持ち上げて記憶を辿っているような仕草をした。 「ああ…、そういえばそんなこと噂で聞きました。よく覚えてないけど、確かホワイトビーチの近くじゃなかったかしら…」 自分の言っていることを噛み締めるかのようにウェイトレスはそう答えた。 「そこは遠いのかな」 山瀬がそう聞くのと同時に調理場の方から誰かの怒鳴る声が聞こえた。ウェイトレスは首を縦に振りながらそそくさと調理場の方へ行ってしまった。どうやら調理場から聞こえてきた声は彼女を呼んでいる声だったようだ。  コーヒーを啜りながら山瀬は島に滞在する間の交通手段を考えていた。まだ島に来て1時間しか経っていないが、車を一台も見ていなかった。 「こりゃ多分レンタカーは無理だ。オートバイでも借りるしかないか」 まだコーヒーは半分以上残っていたがこの暑さでなかなか喉を通らなかった。それをそのまま残して早速サミス・インを探すことにした。  ウェイトレスに教えてもらった通り、道を辿っていくとそれは案外簡単に見つかった。それもそのはずで、サミス・インはかなり大きく派手な看板を掲げていたからだった。1階がレストランで、2階がホテルという店構えだった。レストランには遅めの昼食を摂っている客が数人いるだけだった。カウンターに近付くと、中に座っているやっぱりやる気のなさそうなウェイトレスがだらだらとカウンターの前に立って何も話さない山瀬に近寄ってきた。 「何か…」 ウェイトレスはがさつな話し方をした。日本だったら「いらっしゃいませ」等の気の聴いた言葉も聞けることだろうが、そんなことはあり得ないということを以前から承知している山瀬も気のせいかつっけんどんな態度になっていた。 「一泊いくら」 ウェイトレスの態度が気に入らない山瀬の言葉が自然とぶっきら棒になった。ウェイトレスはそれに気付いたらしくほんの少し姿勢を直したようだったが後の祭りだった。泊り客をとる場合は僅かにスタイルが違うのかもしれないと山瀬は思った。料理と違って食材費などの元手が余りかからないので利益率がいいということもあるのだろうか。どちらにしても癪に障る。山瀬は自分の気持ちが相手に伝わるようにわざと憤りを顔に浮べた。ウェイトレスは申し訳なさそうな表情を顔に浮べた。山瀬はそれ以上虐めるのも気が引け幾分顔の筋肉を緩めた。ウェイトレスはそれを見て取ったのかぎこちない作り笑顔をして見せた。山瀬は他のウェイトレスとはほんの少し違うぎくしゃくしたそのウェイトレスの雰囲気に愛嬌を感じた。 「朝食付きで650ペソです」 幾田優子から受け取った調査に対する当座のお金をいろいろな経費に割り当てて山瀬は宿泊料を一泊1000ペソと予定していた。それから比べれば安い宿泊料金だった。ただウェイトレスに言われた料金をそのまま飲み込んでしまう山瀬ではなかった。 「一週間泊まると一泊いくら」 こういう田舎の宿はだいたい泊まる日数によって料金が割引されることを山瀬は知っていた。 「一週間だと一泊550ペソですが、その場合料金は全て前払いになります」 山瀬の勘は当たった。経費が足りなくなったら連絡してくれという幾田優子との約束だったが、そう簡単にお金を請求できるものでないといというのが山瀬の考えだった。まずは今の手持ちのお金をいかに有意義に使うかということを山瀬は考えていた。とりあえずは宿泊費を約半分に抑えられた。山瀬はほんの少しだけ満足した。 「部屋を見せてもらってもいいかな」 ウェイトレスはそれを聞くと、山瀬に背を向けて何やら壁にかかった小さな箱のほうへ歩いていった。どうやら鍵箱のようだ。表面の扉を開けると釘に引っ掛けられたいくつかの鍵とその鍵についているキーホルダーが山瀬の目に映った。山瀬はウェイトレスから鍵を受け取った。部屋の番号は208と書かれていた。ウェイトレスがそれ以上動こうとしなかったので、一人で見てこいと言われているのだと勝手に解釈してカウンターから離れた。  階段は途中で一度左に90度折れていた。上り詰めると廊下を挟んで部屋が約10室くらい両側に並んでいた。一番手前のドアの番号を確かめると201と札が貼られていた。その反対側の部屋は202となっていたので山瀬には当然208号室は中間の辺りにあるのが直ぐに分かった。部屋に入ってみるとカーテンが引かれているせいで幾分暗かった。ベッドはダブルベッドくらいの大きさで清潔感もあり申し分なかった。トイレも覗いて見たがこちらも清潔感では問題なかった。ただ山瀬の癖でホテルで部屋を借りるときはトイレの水を流してみる。これも問題なかった。さっきの宿泊費の節約の満足感が倍に膨らんでいた。 「そういえば朝飯付きだって言ってたから食費も少し浮いたな」 あまり期待できる朝食ではなさそうだったが、朝から高い朝食を摂るような山瀬でもなかった。大き目の皿にこじんまりと載せられた朝食のイメージが頭に浮かんでいた。  一階のカウンターに戻り宿泊を決めたことをウェイトレスに告げると、何やら紙のようなものを渡された。宿泊の受付用紙だった。言われたとおり名前と住所を書き、それと合わせて財布から約束の一週間分の宿泊費分のお金を引っ張り出してカウンターの上に載せた。 「パスポートか身分証明書はありますか」 山瀬はジーンズの後ろのポケットからパスポートを引き抜くとカウンターの上に置いた。ウェイトレスは申込用紙とパスポートの名前が同じことを確認するとそれを先に山瀬に返した。次にお金を数え終わると領収証を書いてくれた。 「ありがとうございます。山瀬様」 期待していなかった言葉が山瀬の耳に響いた。気のせいかウェイトレスの目が少し生き返っているように見えた。 「名前はなんていうんだい」 一週間顔を合わせるのだから名前くらい聞いてもおかしくはないだろうと山瀬は思った。ウェイトレスは最初答えるのが恥ずかしいのか俯いていた。ほんの僅かな間ができたがそれでも笑顔で答えた。アイリーンというのが彼女の名前だった。山瀬は鍵を手に重い旅行鞄を引きずるように再び階段を上り始めた。疲れているのだろうか階段を上る足が重く感じられた。階下からアイリーンが他の客の相手をしている声が聞こえてきた。大きな声の外国人が訛った英語を話していた。  部屋に戻ると心地よい眠気が山瀬の頭の中を取り巻いた。着の身着のままベッドの上にうつ伏せになった。これからの予定を考えなければならない山瀬の思考能力をその眠気が踏み切りの遮断機のように前に進ませようとはしなかった。とりあえずは目的地に辿り着いたという安堵感がその眠気を作り出していた。山瀬は無意識に眠りに落ちていった。窓の外はまだ明るく、その陽の光がカーテンを透して部屋の中に心地よく優しい雰囲気を創り出していた。淡く暖かい光は山瀬が眠った後も眠ることなく部屋を照らし続けていた。 第三章 ー 首輪 ー へ https://ofuse.me/e/16603

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