飼い主獣人スレッタとペット人間ミオリネさん:6-5

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6-5: 1 「こんのガキんちょは、どうして一鼻で突っ込んでいきますかね」  絶賛怒られています、スレッタです。爪をひっこめたぷにぷにの肉球で顔をシバいて来るケナンジさんに「仕方が無かったんです」とキュウと鳴くと「キュウじゃありません!」と更に叱られてしまう。遠吠えネットワークで助けが要るかと訊かれていたのに無視したから、ともすれば大惨事だったとお怒りらしい。 「大型種が単独で突っ走りがちなのはよ~く知ってますがね、オタクだって無敵じゃないんです。クマが出て来るなんて予測してなかったでしょう?」 「はい……すみません、一吠えすべきでした……」 「次は絶対応援を呼ぶんですよ? 結果として何とかなったから良かったですが……ツガイを孤独にさせたくないなら、自分を大事にしないとダメです」  ケナンジさんはネコなのにツガイ持ちのイヌって点に重きを置く。なんとなくだけど、軍に居た時にツガイ持ちのイヌの部下を亡くしたとかそういう過去がありそうだなと感じた。多分本気で心配してくれてるんだ。もう一度頭を下げた。 「しかし二足歩行主義者に野良ヒトに、更にクマかよ。戦争でも始まんのか?」  エランさんの言葉に、ミオリネさんは途端に厳しい表情になった。 2 「戦争……あり得るかも」 「はぁ!? 幾らなんでもあり得ないでしょう!? 誰が得するんですかそれ?」  驚くケナンジさんに首を振って、ミオリネさんはクマが去って言った方を睨む。 「多分絵を描いてるのはシャディク、野良ヒトのリーダーよ。ヒトによるヒトの国を作るって以前言ってたもの。二足歩行主義者の啓蒙主義派閥って言ってたかな、彼らを利用して私を攫ってお飾りに据えようとしてたみたい」 「ヒトによるヒトの国だぁ? クマは何の関係があるんだよ」  ケナンジさんもエランさんも苛立たし気に尾を振る。二尾ともミオリネさんの話についていけてるらしい。私は分からないので傷口でも舐めてようかな。 「ヒトだけじゃドラゴンの脅威に対抗しながら一から国を作るのは大変でしょ? 既に完成してるものがあるなら乗っ取る方が簡単、そうじゃない?」 「イヌネコはドラゴンよりも弱いから、ですか? はは……笑えない話ですね」 「つっても蛮族だぞ? 群れならそりゃ脅威だが、話はそう簡単じゃないだろ」 「連中も群れるメリットがあるなら群れるんじゃないですか? クマはただその必要がないから野性的な生活を続けてるって、定説でしょう?」 3  クマは群れない。個々が竜に匹敵するほど強く、そしてツガイを作らずメスだけで子育てをするからだ。でもあの二頭は一緒にいたわけで。きっとお互いが大切だったんだろうなって思う。勢いあまって殺しちゃわなくて良かったな。 「はぁ、そうじゃなきゃ良いんですがね……クマの大群が襲ってきたらこの街はひとたまりもないですよ。軍に連絡しておいた方が良いでしょうねぇ」  ぺろっと唇を舐める。まだ血の味がする、あのクマに噛みついた時の肉を裂く感触が残ってる。あの浅黒いヒトとか二足歩行主義者が見たらまた野蛮だなんだと私を詰るのだろう。でもそれは皆を、ミオリネさんを守る為の力だ。大型イヌのダイア種の力があったからこそ、私は彼女を守れたのだ。  待てよ? 結局暴力の代行者って役割でしか私はミオリネさんの役に立てないってことなのかな? むむ、と私は頭を悩ませる。私はミオリネさんの役に立ちたくて、それは皆を守るって形くらいでしか果たせなくて、それには敵が必要で。ミオリネさんの役に立ちたいと私が望むと、ミオリネさんが窮地に陥って欲しいと願うことになってしまう。それって酷い矛盾だ。ミオリネさんはただのスレッタで居ていいって言ってくれたけど、ただの私に出来ることって何だろう。 4 「まぁ、二鼻ともお疲れでしょう。後始末は事務所からイヌ呼んでこっちでやりますよ。エランさんでしたっけ、貴方も撃たれてんですから病院行きなさいね」  はーいと返事をする。イヌが来るなら任せて良いだろう。エアリアルの話もしてあるし、あの子にはちゃんとお姉ちゃんの所に戻るよう言い含めた。すごく不服そうだったけど、うろうろしていると間違って攻撃されてしまうからね。素直に従ってくれるとは思えないけれども。 「じゃあミオリネさん、帰りましょうか」  ズタボロになっちゃった伝統槍術の防具とか、折れ曲がった槍とかは、どうせ買い換えなきゃ駄目だからゴミで良いか。等と考えつつ手を地面についてミオリネさんに背中に乗るよう促すと、何やら不服そうな声が返って来た。 「あんた怪我してるじゃん。なのに乗れって? 馬車とかないの?」 「大型種が乗れる馬車なんて無いんです。どうせ走るんですからミオリネさん乗せていっちゃった方が早いですから。我慢してくれるとありがたいです」  血が毛にこびり付いてて不快なのだろう。実際の所、大型種の乗れる犀車は街中まで乗り入れてくれない。申し訳ないが我慢して貰うしかなかった。 5  お家について、慣れ親しんだ巣の匂いを嗅いで、今日は大変だったなと振り返る。あちこち傷だらけだ。蹴られたところもじんと痛む。お風呂でささっと毛にこびりついた血を洗い落としてリビングに戻ると、ミオリネさんは落ち着いた様子で新聞を読んでいた。すごいなぁ。迎えに行った時もそうだけど、今回の誘拐騒動の最中、ミオリネさんは焦ったり恐怖で体が竦んだりそういう匂いが一切しなかった。いつも堂々としていて、迷わない。二足歩行主義者が言う通り、戦うことしかできない私と彼女では不釣り合いに見えてしまうくらいなのだろう。 「じゃあお願いします! 傷口の周り剃って、薬塗って、包帯です!」  救急箱を渡してソファに寝転がる。クマの爪は四本揃っているから、あちこちに大きな鋭い傷が出来ていた。普段は手が届かないから放置しちゃうか、病院に行くしかないその傷を、ミオリネさんの小さな手が器用に治療してくれる。 「……痛む?」  本能的なものなのか、イヌネコは弱ってる姿を見られるのを嫌う。基本的に家族と心を許せるような相手にしか見せられない。でなければ殺されていた時代があるのだろう。だから咄嗟に訊かれて痛いと答えるのは少し難しかった。 6 「少しだけ。お薬、結構沁みますね」  弱さを見せたくない、そう思ってしまった。実際は傷薬がとても沁みたし、毛を剃られた部分はすーすーして気持ち悪い。でもソファの横に屈んで傷の手当てをしてくれるミオリネさんに、どこまでもいつも通りの彼女に気取られたくなくて、痛みを飲み込んだ。なんだろうな、むしろカッコ悪いような気がした。 「……ねぇ、さっきから何我慢してんの?」  ミオリネさんは溜息を吐いて、私の頬を掴んでびよーんと伸ばす。 「いつもならもっと、こう、褒めて欲しそうにするでしょ、あんた」  たしかに。いつもの私なら、ミオリネさんを守りました! 痛くても頑張りました! って褒めて欲しくて尻尾をブンブン振り回してるだろう。包帯を巻いてもらった腕を擦りつつ、ソファに座り直す。尾も耳も、今は元気がない。 「私……私、ミオリネさんの役に立ちたい、です」  首を横に振る。役に立ちたい、それはそうなんだけど、少し違う。 「ただ養ってもらってます、私。ミオリネさんは私の大型種としての力のこと、守ってくれてるって言いましたけど、それって大型種なら誰でもできます、し」 7  私が大型種として力を揮うのは、大型種の役割がそうだからだ。ミオリネさんの会社に名前を貸しているのもそう、私である必要性はそんなに無い。 「だから、それだと私じゃなくても良いから、ミオリネさんのツガイとして私にだけ出来ることをしたいんです。でも考えても、私、戦うくらいしかできなくて。あのヒトにそんなんでミオリネさんのこと幸せに出来ると思ってるのかって言われた通りで、どうしたらいいか、分かんなくなっちゃいました」  私が言い切るより少し早く、ミオリネさんは「バ」と言って一回口を閉じた。今バカじゃないの、って言おうとしませんでしたか? 「あのね……まずあんな奴の言うことなんか気にする必要ないの。あんたに私を幸せにする義務とか、無いし。あんたがいてくれれば勝手に幸せになるわよ」  好きだから、居てくれるだけで良い。ミオリネさんはそう言ってくれるけど、それでは私の気が晴れない。ミオリネさんに尽くしたい。ミオリネさんに役に立つって思われたい。私の隣はやっぱあんたじゃなきゃねって、言ってもらいたい。 「じゃあ、一日三食ご飯作って」  深い溜息を吐いて、ミオリネさんはめんどくさそうにそう言った。 8 「帰ってきたら抱き締めてご苦労様って労って。お風呂も寝るときも一緒に居て。美味しい物食べてニコニコしてて。出かける前必ずマーキングしてって」  それっていつものルーティンそのまんまじゃない? 顎を引いて鼻を舐める。 「それだと今までと一緒です……」 「だから、それで、良いんだってば!」  何故分からないのかと言いたげに、少し苛立った様子でミオリネさんは私の膝の上に乗り上げ、がぶりとマズルを噛んでくる。マズルを噛むのはイヌ同士だと、落ち着いてくれ、甘えて欲しい、の意味の体動詞だ。どきっと心臓が跳ねる。 「私はとっくにあんたが居なきゃ生きてけないのに、勝手にネガってうじうじすんのは止めて。いつも通りにしてくれてるだけで、私は十分幸せだから」  じっと至近距離で目を見つめられる。ようやくミオリネさんが言っていることの意味がすとんと理解できた。そうか、いつも通りにしてるだけで、私ミオリネさんの役に立ってるのか。ちゃんとミオリネさんを、幸せに出来てるのか。 「……週に三回の交尾も、ですか? 気持ち良くなってくれてますか?」  そう囁くとミオリネさんは上ずった声で「言わせないで」と小さく叫んだ。 20260706 by トランジスタ 本投稿の無断での転載・複製・複写・販売・AI学習を禁止します。 うじうじッタTIME、終了…。 ケナおじが今作ちゃんと大人しててケナおじ~ってなる。太っちょジャガーのおじさん。ちょくちょくあざとい。ネコじゃなきゃ許されてない。

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