飼い主獣人スレッタとペット人間ミオリネさん:7-5(連載)

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・7-5: 1  悪い予想というのは当たるものなのか、それともドラゴンが来るかもなんて口に出したのがまずかったのかな? 鳴り響くサイレンに喉の奥が引き攣った。 「プテラの襲撃警報です! 皆さんを早く避難させないと!」  プテラは、ラプターに次ぐ私たちにとって最も身近なドラゴンだ。13メトル程のとても大きな翼を持つ、羽根の無い鳥、空の王者。高々度から滑空し超高速で獲物に体当たりすることで、質量と速度で獲物を粉砕、捕食する。懸命な防衛で殆ど街に近付いて来ることは無いが、一歩防壁の外に出て別の街に行こうとすると盛んに襲って来る。中型以下の体格体重では爪も牙も敵わない脅威だ。 「血の匂いに引き寄せられるかもな。皆伏せるか壁に張り付いて!」  エリクトは紐で拘束しようとしていたシャディクさん達を急いで壁際、狭い路地の方に追いやる。上空から突進してくるはずのプテラに対する一時避難は、伏せるか壁にぴったりくっつくかだ。私もミオリネさんと、まだ床で震えてるイヌネコ達を通りに立つお店までエスコートする。 「逃げようとか思わないでね!? 絶対に捕まえれるけど、面倒だから!」  大声でヒトたちを脅しつけてるエリクトを見つつ、耳をそばだてる。 2  プテラが高速降下を始めると空気を切り裂く甲高い音と、切り裂いた空気が戻ろうとする低い音が辺りに響く。聞き取ることが出来れば対処は難しくはない。しかし聞こえてきたのは、どこかで聞いたことのある陽気な笑い声だった。 「うひょー! ……どーん!! ソフィー、さんっ、じょー!」  クマが上から降って来た。前方に射出されるような状態で上から降って来たクマは、騒ぎで誰もいなくなった大通りに着地し、勢いのままゴロンゴロンと前転する。見上げれば恐らくそのクマが掴まって来たのだと思しきプテラが、勢いよく上空に飛び上がりながら怒りの声を上げていた。クマは私たちイヌよりもネコに近い重量系の体重をしている。若いクマで少々小柄とは言え200キリロイはある筈だ。それが幾らプテラとは言え掴まって滑空して防壁を越えて来たとはとても信じられなくて、クマがのそのそ起き上がるのを呆然と見守った。 「……ド、ドラゴンライダーだ。スレッタ! ドラゴンライダーだよ!」  エリクトが興奮気味に叫ぶ。小さい頃夢だった光景が見れて大興奮なようだ。 「んー? ん。いい匂い。あ、ヒトだ。……すぇったおねーちゃん、いる!」  クマはふんふんと辺りを嗅いだ後、こちらも感動した様子で頷いていた。 3 「うんうん、いい位置。私、ドラゴン、来た。私、ソフィ。すぇったおねーちゃん、ドラゴン、出す。私、たたかう、する、楽しい! 良い?」  クマは、えっとソフィさんか、はクマなりの拙い言葉で何かを懸命に伝えて来る。クマは歴史的にも口頭で話す必要があまり無かったために、発話に相当支障があるはずだ。けれど文法や言葉が理解できない訳ではないし、言葉が通じない訳でもない。彼らが蛮族と呼ばれている理由は、別にある。 「んー? 何を言いたいんだろ、エリクトわかる?」 「……多分だけど、前回スレッタがエアリアルを出してきたけど、今回は自分もドラゴン連れてきたから再戦しようって言ってるんじゃない?」  ミオリネさんがそう補足してくれたけれど、つまり何? どういうこと? 「ソフィ! なんでここに? ここは君達の襲撃予定地じゃないだろう?」  シャディクさんが声を荒げる。それもそうだ、シャディクさんの計画が反対側でクマに騒ぎを起こさせて軍を引き付けて、手薄になったところから街内部に入り込み段階的に制圧、最終的にクマを招き入れるという順番だったのなら、今ここにクマが居るのはおかしい。最悪計画が破綻しかねない話だ。 4 「? 知らない。ドラゴン捕まえた、飛んだ、びゅーん! ここだった」  シャディクさんが凄い顔をしているのが見えた。これがクマが蛮族と呼ばれている由縁だ。根本的に〝集団の益〟〝群れの理屈〟〝交友関係〟などが分からないし、取引や契約なども分からない。世界を基本的に〝自分とそれ以外〟でしか捉えないのも相まって、基本的に交渉は不可能と思った方が良い。会話は通じるから話が出来ると思いがちだけど、どう解釈されるか分からないから気を付けるようにと学校では習う。シャディクさんの指示も多分曲解されてるんだろう。 「ドラゴン来たよ! たたかう! わーい!」  ソフィさんが乗って(?)来たプテラが戻ってくる。速度は遅く、足を前に突き出した突撃スタイルだ。クマと大型イヌと見て接近戦に切り替えたのだろう。 「スレッタ、来るよ!」  後ろ足を鋭く薙ぎ払いつつ、プテラが地面に降り立った。地面に転がったヒトさん達の遺体を遠慮容赦なく踏み潰し、甲高い怒りの咆哮をあげる。エリクトの言う通り血の匂いで興奮してしまっているようだ。なんとか仕留めるか、帰ってもらうかしないといけない。激戦の予感に、私は四足で身を低くした。 5  起きてと言われた気がして頭を振る。一瞬意識が飛んでいたらしい。 「エアリアル! 左からクロー!」  ギャウと応えたエアリアルが、私の指示通り右からソフィさんに飛びかかり、鋭い爪の一撃を繰り出す。エアリアルたちは実際には発声詞を理解しているわけではなく私やエリクトの出す体動詞やサインを見て判断しているので、こういうフェイントも可能なのだ。ソフィさんの体がズバリと切り裂かれる。 「あっははは! さいこー! つよい! ドラゴン!」  対するソフィさんは攻撃を意に介した様子も無く、エアリアルの体を捉えようと腕を伸ばす。いけない、掴まれたらおしまいだ。私は急いで起き上がり、その腕を吹き飛ばした。単体で竜と渡り合うというクマの力は並大抵のものではない。エアリアル一枚だけだったらとっくにやられていただろう。  戦闘が始まってからどのくらいたったのだろうか。ソフィさんにクマがもう一頭加わり、エアリアルまでやってきて、場は混沌としていた。 「エリクト! まだ!?」 「ぐぬぬ……もうちょっと……っ!」 6  エリクトは今持参の鎖でプテラを縛り上げてる最中だ。嘴を封じ、羽ばたけないように翼を封じようとしている。それまで私とエアリアルはクマ二頭の相手だ。ノレアさんはソフィさんに比べると神経質なようで、エアリアル配下のチビラプターたちに四方八方からちょっかいを出されて半ギレで暴れていた。 「あー、もう! うっとお、しい! ソフィー!」 「お呼ばれ! はい!」  ノレアさんがソフィさんの死角を補佐するように背中側に立つ。むむ、私もエアリアルもクマの膂力に掴まったら逃げきれないと分かっているから一撃離脱を心掛けるしかないけれど、攪乱してくれていたチビラプターたちは彼女達の腕が掠っただけでも致死的だ。さてどうしたものか。  考え込みそうになった瞬間、バキンと金属の何かが壊れる嫌な音がした。エリクトが持ち歩いてるのはラプター用の鎖だっただろう。プテラの翼は何百キリロイの質量を持ち上げるだけの瞬間的なパワーがある。耐えられなかったのだ。ぐわっとプテラの翼が広げられ、引っ張られた鎖がエリクトの体に絡みつく。 「あ」 7  勢いよくプテラの翼が振り下ろされ、ものすごい風と共にプテラの体が宙に浮く。度重なる攻撃に怒りや食欲よりも撤退を優先したくなったようだ。問題は、巻き付いた鎖のせいでエリクトが一緒に持ち上がってしまったことだけだった。 「え、いやまっ、ちょっ、とま、止まってぇ~~~~!!」  クマの体重支えて滑空できるならイヌくらい持ち上がるのも当然なのかもな。遠ざかっていくエリクトの悲鳴を聞きながら遠い目でそんなことを思った。 「おーすっごい! んー、たたかう、んー……おいかける!」  ソフィさんが目をきらきらとさせて手を叩いてはしゃぎ、そのままこちらへの興味が無くなったかのように走り出す。本当に興味を失ってくれたのかは分からない。そのまま二度と戻ってこないで欲しいなとは思った。のそのそと近付いてきたノレアさんを二足で立ち上がって迎えると、彼女は不快そうに鼻を鳴らす。 「ソフィ、飽きた、から、帰る、ます」 「あっ、はい。お気をつけて?」  なんとなくそう答えると、大きく舌打ちをしてノレアさんもソフィさんの後を追った。気紛れに来て気紛れに帰る、嵐みたいだ。本当、クマはこれだから。 8 「大丈夫ですかぁ皆さん、ドラゴンもクマも帰りましたよー」  退避させていたミオリネさんとシャディクさんたちを確認すると、彼らは避難させた家屋の奥の方で縮こまって、何やら沈痛な面持ちで押し黙っていた。 「……で、分かった? 敵対するってことは、アレらと戦うってことだけど」  ミオリネさんが何やらそう訊ねると、シャディクさんは首を横に振る。 「よく、わかった。俺達は最初から勘違いしてたんだな……」  何の話だろう。首を傾げると、ミオリネさんは私にふわっと笑いかけて「かっこよかったよ」と言ってくれる。本当!? 私カッコよかった!? 「そろそろ戻りましょうか。外のクマたちも飽きて帰り始めてるっぽいです!」 「あんたの怪我も手当しないとね。……あとエアリアルをどうにかして?」  言われて慌てて外に出る。エアリアルはギャウギャウと止めるよう言ってるが、食い意地の貼ったチビたちがヒトさんの遺体に齧りつこうとしていた。 「わーっ!? ダメですよおチビたち! それはご飯じゃないです!!」  慌ててチビラプターを追い払う。「そんなにでたらめに強いなら、強いって最初から言ってくれれば勘違いしないで済んだのに」とシャディクさんが呟いた。 20260716 by トランジスタ 本投稿の無断での転載・複製・複写・販売・AI学習を禁止します。 プテラ:翼の大きさが最大で15mに届くかってくらいのでっかい翼竜。翼竜は羽根で飛ぶ鳥と違い旋回性能や推進・揚力性能、損傷時の修復機能等ありとあらゆる面で劣っていた為、空は殆ど鳥の天下になった。けど、実は鳥は大型化できないという生物上の仕様が存在しているので(鳥はどれだけ大型化しても体重25kgまでだとも言われてるよ)唯一大型肉食鳥類の座に於いてのみ翼竜は生き残ることが出来た。翼竜は手=翼を使って四足で走って助走を付けれるので、200kgとかのサイズになっても飛びたてる(諸説あるがここではこの説を採用)のだ。嘴を持つのでイヌネコ的には“羽根じゃない鳥”。 鳥に比べて機動力が劣る為、高々度から羽を畳んで超高速降下して足でッパーン!!と殴りつけて気絶・粉砕するハヤブサ様の狩りをする。イヌネコ自身が40~90km/h程度の速度で走るので、これを狩る為にこういう進化になった。実際のケツァルコアトルスは地上性で飛ぶのは補助だったとかも言われてるけど、地上でちんたらしてたらイヌネコクマに襲われるので、でかめの淘汰圧がかかってる。つまり猛禽類化した翼竜ってことだね。摂食の際は普通に下りて来るが、この時襲われた場合は、翼の爪や鉤爪をぶん回したりして暴れる。翼の手とか足はかなり硬質なので実際アブナイ。大型種であれば対抗し得る(突っ込んできてもねじ伏せれる)が、体長2m未満のイヌネコにとっては為すすべなく気付いたらぶち殺されてるヤバいドラゴンです。この世界こんなんばっかだな。 街の外壁には連射式の石弓とかが設置されてるし、そもそも街中は建物障害物だらけでハヤブサ様の狩りをするにはバカ向かない為、普段街には寄り付かない。車を引く家畜として馬の他に犀が採用されている理由はほぼこいつのせいです。 街:なんか解説してなかった気がするけど、国全土を均等に防衛するのはコスト的にもあらゆる面でも何も見合わないので、防壁を備えたでっけぇ(アメリカの州サイズ)街が都市国家群的に散在している。一応全部一つの国ではある。2話で出て来た“追放刑”が適用されるのは街単位なので、無事に隣の街に着ければおとがめなしで普通に暮らせる。まぁ「あいつこんなことしたんだぜ」は預託所で情報として共有してるから、“普通に”では無いかもだが。 列車の開発は実際画期的であった。ヴィムがポンコツ過ぎておじゃんになるところだったけども。ちなみに所謂インターネットはこの世界にはまだ無いが、地下埋没の通信菅が通されていて電話も出来るしラジオも同一周波数で流されてる。ので、距離と踏破難度がものすごいだけで感覚的には俺らで言う“隣の県”と同義。 今回襲われたのは壁の外にある(半放し飼いでのびのび育てる必要がある)馬の牧場と、(レクリエーションでも用いるほぼ猪な種)ノシシの牧場。そこを襲ったクマが外壁に取りついたよ、という想定。 工場・牧場:街の中にある生産施設。ヤケイとバンリュ、あと生鮮食品の一部は工場産。残りはスペースの問題で壁の外(こっちが“牧場”)なので、農業・畜産業者は大体危険と隣り合わせの誇りある仕事。ちなみに俺らで言う“工場”はこの世界だと“製作場”、ややこしい。 ドラゴンライダー:ご実家がドラゴン研究の権威サマヤ家の長姉エリクトはドラゴンを乗り回すドラゴンライダーになるという夢があった。小さい頃はエアリアルの背とかにもよじ登ろうとしていた。が、現存する竜の背に大型種が乗ろうとするのはかなり無理があると気が付き、断念。現在はラプターを訓練して現実の軍用警察犬のような職能家畜にできないかの研究をしている。5話、訓練中にノンデリ発言をして怒ったエアリアルにサボタージュされている。 ちなみにウェンディとナイラはプテラを飼い慣らす研究をしてる。……飼い慣らす? あれを…? ガッツあり過ぎ…。 クマ:進化の過程で個体として強すぎた&雑食でなんでも食べれたが故に、群れ=社会を形成するインセンティブが無く、その為今でも文明の意義を理解しない野性的な暮らしをしている、イヌとネコの並ぶこの世界の獣人種。知能が低い訳でもなく、馬鹿でも愚かでも間抜けでもないが、自分が強くて好きなことをしてよいと認識している為に、全体的にサイコパス&ソシオパス気味だと思って良い。群れが分からないのでツガイとか夫婦とかカップルもよくわからんし、取引も約束もよく分からないし、自分の気持ちを我慢してまで嫌いな奴と仲良くする理由も良く分からないし、わざわざ発話で気持ちを伝える意味もよく分からない。そんなんだからイヌからしたら「群れのルールを理解しない奴」だし、ネコからしたら「取引が成立しない奴」として蛮族と呼ばれることになった。 シャディクはメリットを提供することで話を聞いてもらっていて、クマ側も目の前のヒト食い殺すよりも提供されるメリットの方が有益だから合理的に判断して話を聞いていた。だからシャディクは取引出来てると認識してたんだけど、クマは別に指示を聞いて従っている認識では全くなかったので、肝心な時に何も役に立たない訳です。 ちなみにイヌネコと同じでちゃんと種類が複数に別れてた、んだと思う。結局はヒグマとクロクマとかしか体格とか膂力的に竜と釣り合わなくて滅んだと思う…。ソフィはヒグマ。ノレアはクロクマ(本来はもっと臆病)。

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